なぜ衆院解散できる?首相が自由に決められる理由 #選挙のギモン
どうしていま、衆院を解散するのか――。人々の生活に直結する予算編成が後回しにされ、批判の声も強い。首相はなぜ、解散を自由に決められるのか。
「身勝手な解散」
「身勝手な解散ではないでしょうか。選挙には何百億円もの税金がかかるとも聞きます。それだけのお金があるのなら、お金がなくて困っている人を少しでも助けられるのに……」
Advertisement生活困窮者らのサポートを続けている一般社団法人「あじいる」(東京都荒川区)のスタッフ、荒川茂子さん(70)はそうつぶやく。
高市早苗首相は19日、解散の意向を表明した。これに従い、衆院は23日午後に解散される。
1年3カ月前にあった衆院選で選ばれるなどした衆院議員465人は全員、4年の任期を半分以上残して「クビ」になり、有権者は2月8日投開票の選挙で再び議員を選ぶことになる。
憲法7条の「天皇への助言」が根拠
こうした強大な解散権は、憲法7条に基づく。
憲法7条には、天皇が内閣の助言と承認によって形式的・儀礼的に行う「国事行為」を定めている。法律の公布や国会の召集などさまざまな行為が記されているが、そのなかの一つに「衆議院を解散すること」がある。
政府はこれを根拠に、天皇に助言する内閣、ひいてはそのトップである首相に独自の解散権があると考える。「7条解散」と呼ばれ、これまでの解散はほとんどが7条解散だ。高市首相の判断もこれによっている。
この7条解散の是非が、裁判で争われたこともある。しかし、最高裁は1960(昭和35)年、「高度に政治性のある国家行為は審査権の外にある」という「統治行為論」を用い、違憲・無効を訴える野党議員側の訴えを退けた。憲法判断は回避され、政府による7条解散の憲法解釈は決着したかたちとなっている。
解散にはほかに、衆院で内閣不信任決議案が可決された場合などに対抗して行われる憲法69条に基づく解散がある。ただ、現憲法下での過去26回の解散のうち、不信任案の可決に伴う解散は4回しかない。
「大義」は安倍政権でも問題に
7条解散は首相の判断によっていつでもできるため、解散の「大義」が問題となることはこれまでもあった。
たとえば、小泉純一郎政権での「郵政解散」(2005年)、第2次安倍晋三政権での「国難突破解散」(17年)などが挙げられる。
歴代首相が解散権の行使に一定の節度を保っていたところ、最近は合理性のない解散が増えたとみる専門家も少なくない。与党が勝てると判断したタイミングで行われることも多いため、恣意(しい)的な行使になっているとの見方もある。
日本のように首相が自由に解散できる国は珍しく、議院内閣制をとる欧州諸国では解散権に何らかの制約を設けている。
こうしたこともあり、首相の解散権の制限を検討すべきだとする声がある。一方で、リアルタイムの国民の意思に基づく政治を実現するためには、自由な解散権を持たせた方がよいという考えは専門家にもあり、意見は分かれている。
「任期への敬意を」と専門家
選挙制度に詳しい白鳥浩・法政大大学院教授(現代政治分析)は「従来、解散をするなら前回の衆院選から2年を過ぎてからというのが常識だった。1年3カ月での選挙は、そこから外れています」と今回の解散の異例さを指摘する。
白鳥教授は解散権に一定の制約を設ける必要性を指摘しつつ、「法制化は難しいのではないでしょうか。ただ、日本では任期に対する敬意が足りないと感じます。有権者が4年間を託して選挙で1票を投じたわけで、任期は重いものと考えた方がよいでしょう。国会の不文律、いわば慣習法というかたちで、ときの首相による乱用的な解散を抑えていくしかないのではないでしょうか」と提案する。【遠藤浩二、木村敦彦】