中山美穂の恋文「お元気ですか」 30年後、岩井俊二が語る白い約束
純白の雪が舞う風の中で、24歳の中山美穂は歩いている。
後に作品の象徴となる長回しのシーンが物語の始まりを告げる。
雪原の上で監督の岩井俊二は思っていた。
また奇跡は起きてくれたんだ、と。
『Love Letter』監督・脚本:岩井俊二(C)フジテレビジョン 写真提供:フジテレビ「雪は本当に降ってほしい日にだけ降ってくれました。願うと本番の前に降り出すんです。本当に意味が分からなかった。説明が付かないんです。豪雪のシーンを撮らなきゃいけない前日、夜半から降り始めて深夜に積もっていった。超常現象みたいでした」
1995年3月25日、映画「Love Letter」は公開された。
中山演じる女性が亡き婚約者に宛てた手紙を送り、婚約者と同姓同名の女性から返信が来ることから物語は動き出す。離れた場所と場所を、過去と現在を、生者と死者を人の「想(おも)い」がつないでいく。中山が一人二役を演じ、豊川悦司、柏原崇、酒井美紀らが共演している。
撮影は94年10月下旬から12月上旬まで北海道小樽市で行われた。
クランクアップの後、初の長編作品の公開に向けて編集作業に追われていた岩井は、年明けのニュース番組で偶然聞いた言葉を今でも覚えている。
「『今年は乙亥(きのとい)です』ってキャスターが言ったんです。天変地異が起きたり、不穏な社会情勢になるという言い伝えがあります、と。なんだか嫌だなあ、と思いましたね。あの『きのとい』という言葉の響きは今でも忘れないです」
1月17日、阪神・淡路大震災が発生し、6千人以上の命が失われた。小樽とともに「Love Letter」の劇中で描かれた神戸の街は壊滅した。「(仙台出身で1978年の)宮城県沖地震を経験していたので、あれ以上の巨大地震が起きるなんて、と」
未曽有の災害に傷ついたままの3月20日、地下鉄サリン事件が起きる。国内では過去に例がない無差別テロは犠牲者14人、重軽傷者6千人を超える被害をもたらす大惨事となった。
映画はわずか5日後、不安に…
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この記事を書いた人
- 北野新太
- 文化部|囲碁将棋担当
- 専門・関心分野
- 囲碁将棋