【韓国旅客機事故】“鳥の巨大な群れ”に衝突か 手動で出せる車輪出ず…衝突した壁はコンクリート 元JAL機長語る「論外、信じられない設計」
2024年12月29日、韓国の務安(ムアン)国際空港で、タイ・バンコク発チェジュ航空の旅客機が着陸に失敗し炎上、乗客・乗員181人のうち179人が死亡した航空機事故。
この記事の画像(17枚)現地消防は、事故の原因として、「バードストライク」や「気象条件の悪化」が影響した可能性があると明かしました。
実際に、SNSで拡散された事故当日の務安空港周辺で撮影されたという写真には、鳥の大群とみられる影が、黒い波のように空に広がっている様子が…。
事故当日に務安空港で撮影されたとされる写真 鳥の群れとみられる黒い影が撮影者によると、鳥は旅客機の10倍ほどの巨大な群れとなって、空を真っ黒に染めていたといいます。
バードストライクが着陸に与える影響について、元JAL機長で航空評論家の小林宏之氏は…。
航空評論家 小林宏之氏: たとえ1つのエンジンが止まっても操縦系統にはほぼ影響なくできますし、それから着陸ギア装置、タイヤも下ろすことができます。
やはり「バードストライク」によって“2つのエンジンが停止状態”、またはそれに近い状態になってしまったという、現時点ではその推測が一番可能性が高いのではないかと思いますね。
小林氏が指摘する「2つのエンジンが停止した可能性」。 一部では「人災」とも報じられる韓国最悪の航空機事故の疑問を、めざまし8は、詳しく専門家に聞きました。
救難信号からわずか数分で…
事故当日の午前8時59分、着陸許可に従って機体を下降し始めたパイロットから「バードストライクにあった」と救難信号が出されます。
その後、着陸を止め機体を上昇させた航空機に対し、管制塔から衝突事故が起きた滑走路側に向かっての着陸許可が出され、右回りに旋回。
機体右側のエンジンから炎のようなものが事故を起こす直前の機体を撮影したとみられる動画には、右側のエンジン付近から炎のようなものが噴出している様子がみられます。 9時2分、機体は胴体着陸への体制に入り、滑走路に接地。9時3分、滑走路の先にあった壁に衝突、炎上しました。
元JAL機長でSRC研究所所長の塚原利夫氏は、この一連の動きについて、こう話します。
元JAL機長 SRC研究所所長 塚原利夫氏元JAL機長 塚原利夫氏: 着陸をやり直したということは、高度をまたとって上昇していくわけですから、エンジンの出力がないと上昇できない。ということは、上昇を決心した段階においては、左側のエンジンは健全だった可能性があります。
――救難信号を出した時点では片方のエンジンは生きていた? はい。そう考えられます。 通常であれば1つのエンジンが健全であれば、ゆっくり体制を立て直しながら、(火を噴いていた)右側のエンジンを完全に停止する、つまり燃料漏れを起こしたり他に災害が広がらないような処置をとって体制を立て直してから着陸をしなおすというのが一般的な考え方。
憶測の域は出ませんが、通常無線で管制塔に緊急事態が発生したという通報を行う、これは飛行機の中にある遭難信号を操作しているんですね。ということは、通常よりもさらに切迫した状態にある、場合によっては2つともダメになっていた可能性もあると。
――エンジン以外にバードストライクで重大な損傷が生じることは? 一番大きいのはエンジンです。ただそのほかに、機体周りに気圧のセンサーなど色々なセンサーがついております。そういうところに(鳥が)引っかかった事例もございましたが、それも究極のダメージにはなっていない。大きな不具合ですが、それが直ちに墜落という大事故につながることは今までの例はございません。
――胴体着陸をしたということは、エンジンが止まったことで油圧系統がすべて止まってしまい、着陸用のタイヤなどが出せなかったということですか? 通常は1つのエンジンさえあれば、十分に系統としては回復できるんです。それができなかったということは、両方のエンジンが不作動になっていた可能性もあるだろうと。
しかし、塚原さんによると、エンジンが停止していても着陸用のタイヤについては、副操縦士の運転席の後部に手動用のレバーがあり、それを引くことでタイヤの格納扉が開き、タイヤの自重によって15秒~20秒ほどでタイヤを出すことが可能だといいます。
――手動でタイヤが出ない原因で考えられるものは? 元JAL機長 塚原利夫氏: メカニカルに問題がなければ出ないはずがないんです。
今後分かることだと思いますが、緊急事態の手動でタイヤを下ろすレバーが引かれたか引かれていないのかがポイントであって、引かれていれば時間が短く車輪が完全に降りきらなくても車輪を格納しているドアが開くと。それが開いていないということは、何らかの理由でそのレバーが引かれていないと考えることが妥当だと思います。
防げなかった「バードストライク」
事故の大きな原因と考えられる「バードストライク」。 事故が起きた務安空港は、韓国国内の他の空港と比較しても、バードストライクの発生率が高い場所としても知られる空港だったといいます。
また、定期巡回を行い銃器(空砲)や煙火などで鳥を追い払ったり、滑走路内の草を刈り鳥の餌になる虫の繁殖を防ぐなど「バードストライク」対策を行う担当者は、わずか4人。 他の発生率が高い空港と比べても5分の1ほどでした。
元JAL機長 塚原利夫氏: 数字だけ見ますと少なく見えますが、務安空港は旅客機の発着よりも小型機の発着が多いんです。ですから、実際の中身を見ると大型機に対する影響より、小型のプロペラ機が多いと、訓練空港にもなっておりますから。そういうことから総合的に韓国政府として当局が判断した妥当と思われる数が4名ということはないかと。発生したとしてもダメージが少ないと。
――旅客機向きの空港ではなかった? 滑走路の長さからいえば十分な旅客機向きの滑走路、ただこの空港の周りは水辺が非常にきれいなところで、韓国の南は渡り鳥がちょうど通過をしてシベリア方面に上がっていくコース上にある空港だったということですね。そういうことも複合していて、鳥が多い。その結果のバードストライクと。
――渡り鳥が通る場所に空港を造るのは危険に感じるが基準はあるのか? 特に鳥に対する基準で空港の設置を考えるということは、ありません。 (バードストライクは)日本でも大体年間1300~1500件発生していますが、それが直ちにこのような事故につながるかということになりますと、それは別の問題になってきます。鳥は自由に飛んでいるわけですから人の手によって制御することはできません。表現は悪いかも知れませんが「いたちごっこ」なんですね。
場合によっては鳥の群れが飛来したときには、離着陸を見合わせるということもございます。これは国内の空港でもあることですね。
――鳥の群れが発生していて着陸を避けなかった理由は? この(写真の)大群が空港の滑走路にいたとすれば、それに対して管制塔から「鳥の群れがいますよ」「了解しました」目で見たら本当にいた。だから着陸をやり直しましょうということになったのかもしれません。
コンクリートで補強された“盛り土”
胴体着陸を行った機体が衝突したのは、「ローカライザー」と呼ばれる、着陸する機体に対し滑走路の中心線とのズレを示す電波を発信する、「着陸誘導装置」の下にある“盛り土”でした。
その中身は頑丈なコンクリートで補強されており、それによって衝突の威力が増大されたとみられています。 塚原氏は、この硬い“盛り土”が、今回の事故がここまで甚大な被害に及んだ大きな要因ではないかと話します。
元JAL機長 塚原利夫氏: やはり結果から見て参りますと、なんといっても盛り土、盛り土の中にある構造物それもコンクリートと。これはもう信じられないことです。日本でも1983年に山口の岩国飛行場、当時は米軍の海兵隊と海上自衛隊が使っていた空港で、同じように低空飛行をした結果、滑走路の先にある擁壁に衝突し大事故になったことがあるのですが、日本では珍しいです。
ただ、空港が海に近いところだと、どうしても防波堤が空港の周りにありますのである程度やむを得ないところがありますが、務安空港のような平地であれば、これは全くの論外と言ってもよろしいのかも。信じられない設計ですね。
(めざまし8 1月6日放送)