短期債発行へかじを切る日英政府、金利高でコスト拡大-買い手不足も
長期金利の上昇を受けた借り入れコストの拡大や長期債の買い手不足を背景に、日本と英国の政府は年限の短い国債の発行へかじを切り始めている。利払いの負担を抑えられる半面、金利急騰時には調達コストが膨らむリスクがある。
日本の財務省は償還期間が20年以上の超長期債の大幅な下落(利回りは上昇)を受け、6月に今年度の国債発行計画を見直し、さらに11月にも補正予算の編成に伴い2年債と5年債などを増額した。英国は今年、政府債務の伝統的な柱だった長期国債の発行を過去最低水準まで削減し、短期国債の発行拡大を検討している。
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日英以外にも、米国は財政赤字の資金調達で短期国債への依存を高めつつあり、オーストラリアも超長期債の発行規模を縮小を検討。ブルームバーグ・グローバル総合国債指数によると、世界の政府債の平均残存期間は2014年以来の低水準に縮小した。
こうした世界的な流れの中でも、明確な政策転換を図っているのが日英政府だ。両国の中央銀行は景気下支えのための国債買い入れを縮小しており、長期債に対する需要の減退が影響している。短期債の発行は利回りが低く、政府にとってコストを低く抑えられるメリットがある半面、頻繁な借り換えが必要な点はデメリットになる。
みずほインターナショナルのマルチアセットストラテジスト、エブリン・ゴメス・リヒティ氏は「金利がさらに上昇した場合、利払いが急増する恐れがある」と警鐘を鳴らす。
国債発行戦略の転換は市場環境の変化を映す鏡でもある。先進国で長く続いた超低金利環境下では、超低コストの資金調達を長期で固定でき、中にはオーストリアなど償還期限が100年の「センチュリーボンド(世紀債)」を発行する国もあった。
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一方、足元で金利の先高観は強まっており、調達コストの上昇は免れない状況だ。現在のイールドカーブから算出する10年後の10年金利(フォワードレート10年)は、日本で5年前の0.5%から4.2%へと上昇し、英国は同期間に1%から6%に跳ね上がった。
長期金利の上昇はインフレ圧力になると同時に、従来の買い手による需要が減少していることを示す。英国では長年、確定給付(DB)型年金基金が長期国債を大量に購入し、他の国よりも平均償還期間の長い発行が可能だった。しかし、こうした制度の多くは縮小や終了に向かっている。
日本でも日銀の国債買い入れが縮小しているほか、銀行や生保による超長期債需要が弱まる一方、高市政権による積極財政の方針が国債増発への警戒を強めさせている状況だ。
長期債の需要減少を受け、長短金利差は一段と拡大している。英30年債利回りは今年、1998年以来の高水準を付け、2年債に対する上乗せ幅(スプレッド)は2017年以来の水準に広がった。日本でも新発30年債利回りが2日に過去最高を更新し、2年債とのスプレッドは5月に少なくとも06年以来の高水準を付け、現在も同水準付近で推移する。
長短金利差の拡大で、政府にとっては短期での借り入れが魅力的となっている。英国では、残存期間7年未満の国債が今会計年度の新規発行の44%を占める見通しで、15-16年度と比べ約20ポイント増える。英国債指数の平均残存期間は21年の17年から12年、日本でも約10.8年から9.6年に短縮した。世界の政府債ベンチマークにおける平均残存期間は9年以下だ。
金利低下への賭け
短期債への積極的なシフトは、長期金利がいずれ低下すると読む政府にとっては賭けでもある。仮に低下せず、上昇が続いた場合は借り換え時のコストが急騰しかねない。
T&Dアセットマネジメントの浪岡宏チーフストラテジストは「2年となると、ものすごい速さで借り換えていくことになる」と指摘し、「財政の将来の見通しを予見しにくくなる部分には注意が必要」だと言う。
もっとも、発行計画の変化は投資家需要の変化に対する自然な動きとの見方もある。ベッセント米財務長官は先月、特定の米国債に対する需要の長期的な変化の可能性を綿密に監視しており、それに応じて方針を変えると発言。年初にも、利回り水準を踏まえれば、長期債増発は合理的ではないとの認識を示していた。
米財務省短期証券が政府債務残高全体に占める比率は10月末時点で約22%。シティグループによると、27年末までに26%に達する可能性がある。米国は他市場と異なり、短期債への需要が強い。マネー・マーケット・ファンド(MMF)に8兆ドル超の資金が滞留し、ステーブルコインの普及が進むと短期証券には新たに数十億ドル規模の需要が生まれるとの分析もある。
TDセキュリティーズの米国金利戦略責任者、ジェナディー・ゴールドバーグ氏は「財務省は短期証券発行に一段と依存でき、26年後半までクーポン債の入札額増加を先送りすることで長期ゾーンの利回りへの上昇圧力を和らげられる」とみている。
米英では当面、主要中央銀行の金融政策が緩和方向にある点は短期債発行を企図する当局の支えとなりそうだ。みずほインターナショナルのマルチアセットストラテジスト、エブリン・ゴメスリヒティ氏はイングランド銀行(BOE)と連邦準備制度理事会(FRB)には依然利下げ余地があるとみている。
— 取材協力 Masaki Kondo and Takahiko Hyuga