会見で何が?「私は怒ったわけじゃない」当事者のハンターも困惑 朝日記者”クマとの共存”質問めぐり中傷相次ぐ
最高裁は3月27日、北海道砂川市の要請を受けて出動したハンターの池上治男さんが猟銃所持許可を不当に取り消されたとして処分の撤回を求めた裁判で、北海道の処分を違法として取り消す判決を下した。 池上さんは判決後、東京・霞が関の司法記者クラブで、代理人の弁護士とともに記者会見を開いた。 その中で、朝日新聞を名乗る記者が「クマとの共存に向けて今回の判決に抱く期待などはありますか?」と質問した。 これに対して、池上さんは「えっと何、クマとの共存? あなた、クマとの共存はできないよ」と少し語気を強めるように答えた。 このやりとりの一部始終を映した動画がXで、「朝日新聞記者さん、猟銃所持取り消し裁判で逆転勝訴した池上治男さんにめっちゃ怒られる」という文章とともに投稿されると、「池上さんマジでキレてるの草」「バカな質問だ」などの反応が相次ぎ、1万回以上リポストされた。
弁護士ドットコムニュースの記者も当時、この会見場にいたが、ネット上で炎上状態になっていることは数日後に知った。 実際の会見は、以下のような流れで進んだ。 最初に、代理人の中村憲昭弁護士が最高裁で処分取り消しの判決が出たことを紹介。原告の池上さんが「メディアの人たちのおかげをいただき、感謝申し上げます。安心してハンターを頼れるような結論を出してもらった。非常にいい判決をもらった」などと簡単なあいさつをした。 それから質疑応答が始まり、まず3月の司法記者クラブの幹事社を務める毎日新聞の記者が「(裁判を通して)議論が深まったと思うが、その点について一言いただきたい」と質問した。 その後、各メディアが自由に質問する状況に移り、「判決の意義は?」「判決を受けてどのように活動していきたい?」「一緒に活動されてきたハンターのみなさんに伝えたいことは?」「どういった点がハンター目線の判決だった?」「判決に点数をつけるとしたら?」などといった質問が上がった。
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そんな中、会見から20分以上が過ぎた時に、その後ネット上で炎上状態となる朝日新聞記者による質問が出た。 その際、確かに、池上さんは少し語気を強めた口調になったものの、全体としては、実際にクマと対峙してきた自身の経験から、クマによる人的被害が相次ぐ中で「クマとの共存」を重視する一部の世論に対して、クマの危険性をうったえる内容の話だった。 池上さんは同時に、「あなたがそう思ってるわけじゃないだろうけど、クマとの共存っていうことを言ってしまったら、被害にあったご家族の方々がどういう思いをするかってことを考えなきゃダメだと思う」とも話していた。 実際に、あの会見場にいた弁護士ドットコムニュースの記者の目にも、池上さんが質問者の朝日新聞記者に怒ったという風には映っていなかった。
その後、朝日新聞記者の質問部分だけが切り取られた動画が拡散され、記者を揶揄する書き込みが続いた。 そこで、弁護士ドットコムニュースは改めて池上さんに、こうしたネット上の反応について電話で話を聞いた。すると、池上さんは次のように話した。 「私は怒ったわけじゃない。(ネット上の)コメントとかいうのは、相手がとんでもないことを質問したと思い込む人もいる。でも、あの場にいた人は分かるんじゃない?そんなおかしなことじゃなかったと思うけどね。あんまり『あいつが悪い』とかいう必要もない。質問の仕方が悪かったのかもしれないけど。間違えて捉えられたら困る」
会見の出席者やテーマ、時間にもよるが、筆者のこれまでの経験上、記者会見では一般的に、前半部分で当事者のコメントや細かい事実関係の確認に関する質問が集中する。 これは速報ニュースに盛り込むための質問であるともいえ、各社の記者は必要性の高い質問から優先して尋ねることが多い。 そして、ニュースを報じるために最低限必要なコメントや事実確認が得られた後に、質疑の時間がまだ残されている場合は、別の報道に活用できるようなコメントを取るための質問や、今後の取材で話を聞く相手を探す際の参考にするために会見出席者の考え方を事前に確認する質問など、会見の趣旨に関係のない質問をすることが少なくない。 記者は一般的に、一つの機会でできるだけ多くの材料を引き出そうとする。そのため、当日扱うニュースに盛り込むつもりがなくても、別の取材や報道につなげられる可能性があれば質問をするというのは基本動作ともいえる。
近年、記者会見の様子が生中継されたりオンラインで流されたりすることが珍しくない。 最近では、日米首脳会談の際に、テレビ朝日の政治部記者がトランプ大統領に質問を投げかけた場面をめぐって、賛否両論を呼んだ。 質問の稚拙さや記者の不勉強を批判するのは自由だが、会見の一部を切り取って当事者の思いまでをも歪めて発信するのは、マスメディアが批判されてきたことと同じ行為ともいえる。 一方で、記者は質問をするのが仕事だ。ネット上の反応を恐れて質問をしなくなったら記者は終わりだ。
弁護士ドットコムニュース編集部