【中国ウオッチ】金正恩氏にすり寄る習近平主席◇「非核化」「半島の平和」不問:時事ドットコム

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 中国の習近平国家主席が7年ぶりに北朝鮮を訪れ、一時冷却化した中朝関係の完全修復を誇示した。ただ、「朝鮮半島の非核化」「半島の平和と安定維持」に全く触れないなど、習氏が金正恩朝鮮労働党総書記のご機嫌を伺って、すり寄る形となった。(時事通信解説委員 西村哲也)

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兄妹で中国けん制

 北朝鮮が2024年、ロシアと軍事同盟を結んで、中国離れの動きを見せたことから、中朝関係は一時、高官交流がほとんどなくなるなど冷え込んだが、昨年9月、正恩氏が中国の抗日戦争勝利80周年行事に出席するため訪中して、関係が修復された。

 その後、李強中国首相の訪朝(昨年10月)、中朝間の旅客列車運行再開(今年3月)と関係改善が進む流れの中、習氏は6月8日から9日にかけて共産党総書記・国家主席として北朝鮮を公式訪問した。中朝友好協力相互援助条約の調印65周年を祝う意味もある。習氏は昨年秋の訪韓後、外国に一度も行っていなかったので、今年初の外遊となった。

 習氏は前回(2019年)の訪朝と同様に、平壌入りに際して労働党機関紙・労働新聞に寄稿し、同じ社会主義国としての伝統的な友好関係を強調した。ただ、前回と違って、「半島の平和と安定維持」のための対話を促す文言はなかった。前回は、正恩氏とトランプ米大統領の会談が実現した後だったこともあり、「半島問題」の政治的解決を支持し、積極的に貢献する姿勢をアピールしていた。

 中国外務省の発表によれば、習氏は8日の首脳会談で①ハイレベルの往来により、政治的相互信頼の基礎を固める②「民のために福をつくる」を目標として、実務協力のレベルを上げる③友誼(ゆうぎ)伝承を動力として、民心が相通じるつながりを強める④公平正義を理念として、戦略的協力の内容を豊かにする─という方針を堅持するよう呼び掛ける「四つの意見」を表明した。

 前回訪朝時の首脳会談では「半島の非核化」の動きを評価し、北朝鮮など関係国への協力強化を申し出ていたが、今回は「半島の平和と安定」「非核化」のどちらにも言及しなかった。

 習氏は昨年9月に北京で正恩氏に会った際には、中朝は朝鮮半島の平和と安定を維持していく必要があるとくぎを刺しており、中国の国営通信社・新華社は習氏の訪朝日程が発表された今年6月5日配信の記事でその発言を紹介。共産党機関紙・人民日報も8日、この記事を掲載した。だが、習氏は同日の首脳会談で「地域、さらには世界の平和・安定と発展・繁栄」に触れただけで、朝鮮半島を特定した言い方は避けた。

 一方、正恩氏は3日、新しい核物質生産工場を視察し、「核戦力をさらに強化する」と表明。そのための「重要協議会」も開いた。さらに、金与正労働党総務部長(正恩氏の妹)は6日付の談話で、5月の米中首脳会談で北朝鮮の非核化という目標の共有を確認したとする米政府の発表を「虚偽だ」と全面否定して、自国の核保有は「厳然たる現実」であると主張した。

 金兄妹の言動は中国に対する露骨なけん制で、挑戦的に見えるほどだったが、習氏は実際に「非核化」に全く触れず、北朝鮮側のスタンスを黙認した。「半島の平和と安定維持」を言わなくなったのも、半島の平和統一路線を放棄し、韓国を「敵対国」と位置付けた正恩氏の考えに配慮したためと思われる。

戦友意識薄い北朝鮮

 習氏は前述の「四つの意見」で、まず「外交、法執行、軍隊などの交流強化」を提起し、その後に、経済・貿易や科学技術などの実務協力拡大を望むと述べた。習氏の外国訪問としては珍しく董軍国防相が同行したこともあって、「軍隊の交流」が注目された。

 しかし、正恩氏は、中朝関係発展に関する習氏の「重要な意見」に謝意を表して、経済・貿易、科学技術などの交流・協力を発展させていくと応じながらも、軍事交流には言及しなかった。習氏が中朝関係を「鮮血で固めた伝統的友誼」と形容して、戦友としての結び付きを強調したのに対し、正恩氏は比較的冷めた態度だったようだ。

 北朝鮮はロシアの対ウクライナ戦を支援するために派兵しており、「戦友は中国ではなく、ロシア」という思いがあるのだろう。中朝が共に戦った朝鮮戦争の後に締結された中朝条約には軍事介入条項があるものの、死文化して久しく、北朝鮮側に戦友意識が薄いのは当然である。

 また、習氏は労働新聞への寄稿で「覇権主義と強権政治」と「あらゆる軍国主義の復活」に反対するよう呼び掛けた。10日の新華社電によると、習氏は8日夜の歓迎夕食会でも同じ発言をした。

 だが、正恩氏がそれに同調したという公式報道はなかった。トランプ氏がいずれ北朝鮮に再び接近してくる可能性を考えれば、米国を意味する「覇権主義と強権政治」への反対を中国と共に叫ぶことを避けるのはまだ理解できるが、日本を指す「軍国主義」反対は北朝鮮自身の長年の主張なので、これについても中国側に同調しないのは不可思議だ。中国に従ったような形になるのを嫌ったのかもしれない。

 中国の対外関係は現在、対日が過去最悪の状態。しかも、日本はフィリピンやオーストラリアなどとの防衛協力を積極的に強化している。中韓関係は良いが、李在明大統領はバランス重視で、中国べったりではない。米国とは首脳レベルの交流が続いているものの、トランプ氏はいまひとつ信用できない。首脳外交を派手に展開しているにもかかわらず、中国の対外環境はあまり良いとは言えない。対米共闘のパートナーとして、ロシアとの関係を維持するだけでなく、北朝鮮をある程度引き戻すことも必要なのは間違いない。

 ただ、習氏訪朝の顛末(てんまつ)を見る限り、中朝関係は明らかに北朝鮮側のペースで推移している。習氏が正恩氏の動きを制御できず、その顔色をうかがうばかりでは、中国の外交力はかえって低下する恐れがある。(2026年6月16日)

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