私立高講師だった漫画原作者の「性加害」訴訟、札幌地裁が認定した「事実」あらためて振り返る

札幌市内の私立高校で講師をつとめていた漫画家の男性(50代)から性被害に遭い、精神的苦痛を受けたとして、元生徒の女性(20代)が損害賠償を求めた裁判は、一審判決が不服として原告・被告双方が控訴したことで札幌高裁へと舞台を移すことになった。

一方で、男性が原告女性に関する児童ポルノ禁止法違反で略式命令を受けたことを知りながら、小学館が別のペンネームで男性の起用を続けていたことも明らかになり、批判は出版業界にも広がった。同社は第三者委員会の設置を決めるなど、波紋はいまも収まっていない。

また、一部では原告女性に対するバッシングもみられるなど、問題が大きくなるにつれ情報も錯綜している。

札幌地裁は判決で、何を「事実」として認定したのか。あらためて判決を振り返る。(弁護士ドットコムニュース編集部・猪谷千香)

編集部注:この記事には性加害の内容が含まれます。お読みになる際には十分ご注意ください。

札幌地裁は判決で、原告女性が高校生だった際に受けた行為を次のように認定している。

  • 原告女性は高校入学後、男性が担当する授業に出席し、話すようになった。
  • 男性は原告女性を車で自宅まで送るようになり、車内で当時高校1年生だった原告女性にキスをして、身体を触った。
  • その後、男性は原告女性を校外で会うよう誘い、ホテルで性行為に及んだ。
  • その後も関係は続き、男性は父親のようにふるまいながら、「おしおき」などと称して、自ら要求する態様の性行為をすることがあった。
  • 関係を続けていくうちに、男性は原告女性に自分の排泄物を食べさせた。こうした行為により、原告女性は嘔吐が止まらず、ベッドでのたうちまわることもあった。
  • 男性が原告女性の身体に「奴隷」「ペット」などと落書きして撮影する行為もあった。
  • 原告女性は大学進学後、幻聴や幻視などをうったえて通院を続け、高校生の時に男性から受けていた行為による心的外傷後ストレス障害(PTSD)と診断された。

札幌地裁は、こうした性的行為により、原告女性がPTSDを発症したと認定したうえで、次のように述べている。

「このような性的行為がただちにすべて違法となるということはできないが、心身への悪影響が生じうることに照らせば、このような性的関係については、原告自身が、当該行為が自身の心身に及ぼす影響を十分に考慮したうえで、これを行うかどうかを自らの責任で自由に判断することが前提というべきである」

「原告は被告と性的行為をした当時、未成年だったのであって、上記判断をする能力が十分であったとはいえない」

また、原告女性と男性の関係についても次のように述べている。

「原告と被告は本件学校の生徒とその授業を担当する教員という関係にあり、かつ、被告は原告よりも30歳も年上だったのであるから、原告と被告との人間関係は、被告が原告に対して優位に立つものであった。

したがって、原告が、被告との関係で前記の判断を自由にすることは、より一層困難を伴うものであったというべきである」

そのうえで裁判所は、男性について

「原告の判断能力の未熟さ、両親に対する原告の葛藤や自己肯定感の低さに便乗し、自らが優位に立つ関係を形成しながら、その性的要求に応じさせていたと認めることができる」

と指摘し、原告女性の性的自己決定権を侵害したとして、違法であると結論づけた。

この判決では、男性が漫画の原作者として連載していた小学館の漫画アプリ「マンガワン」との関わりについて、次のような事実が認定されている。

  • 原告女性が警察に男性から性被害を受けていたと伝えた。警察は男性を逮捕した。
  • 男性は原告女性に対する児童ポルノ禁止法違反罪で罰金30万円の略式命令を受けた。
  • 原告女性は、男性と小学館マンガワン編集者をまじえて、LINEグループで、男性が原告女性にした行為に関する紛争の和解に向けて協議をした。
  • 協議の中で、編集者は、原告女性と男性に対し、「示談金150万円を支払うこと」「男性の逮捕により休止していた小学館の媒体での漫画連載を再開することについて中止要求を撤回すること」「口外禁止」などの内容を公正証書として作成することを提案した。
  • 原告女性は、漫画の連載を再開する際には、休載が逮捕を理由にするものであることを公表することを条件にしてほしいと主張。男性はこれを拒否した。
  • その後、編集者は、弁護士から和解に関する書面の作成方法について説明を受け、原告女性と男性に伝えた。
  • 男性は、協議の内容に基づき、「男性が原告女性と交際していた件およびその交際から派生したすべての件に対する和解金として150万円の支払い義務がある」「原告女性は男性が和解金を支払った場合は、執筆活動につき一切の制約を求めないこと」「原告女性と男性はこの和解内容について第三者に口外しないこと」などの和解書案をまとめ、原告女性に押印を求めた。
  • 原告女性はLINEグループで、和解書案の内容では「原告女性が男性の犯罪について今後一切の口出しができなくなる」「原告女性には公表する権利と自由がある」などとして署名をしないことを回答した。その後も、原告女性は和解書に署名や押印をしていない。

札幌地裁の判決では、男性の作家名が明らかにされていなかったこともあり、匿名で報道されていたが、SNS上では「マンガワン」で連載された『堕天作戦』の作者、山本章一氏であると広まった。

また、漫画『常人仮面』において、別名で原作者を続けていたことから、事件を知りながらも起用を続けた小学館に対する批判が高まった。

これを受け、小学館は2月27日、マンガワン編集部のアプリと公式サイト上で『常人仮面』の配信停止と、山本氏が児童ポルノ禁止法違反で罰金刑を受けたことを知りながらも起用を続けたことに対し、謝罪する文書を公表した。

ところが、小学館の公式サイトには何も掲載されなかったことや、金曜日夕方という日時での発表が、消極的な姿勢ととられ、SNSではさらに炎上した。

「マンガワン」編集者が原告女性に対し、事件について「口止め」をしていたとの報道などがあり、批判はさらに強くなった。

結局、小学館は3月3日、公式サイトで、この問題について第三者委員会を設置すると発表する事態にまで発展した。今後は、「マンガワン」編集者がどのように関与していたかなどについて、調査が実施される。

●原告女性「同じような被害に遭う人を無くしたい」

こうした事態を受け、原告女性は3月8日、代理人を通じてメッセージを公表した。

原告女性は「私が本当に許せないと思っているのは、判決が出ても非を認めて謝罪しようともしない加害教員です」とした。3月5日には、小学館の役員らから電話で謝罪を受けたことも明かしている。

そのうえで、「被害の実相を知ってもらい、同じような被害に遭う人を無くしたいという思いが第一」との考えを示している。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

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