【検証】 ウクライナは「クモの巣」作戦をどう実行したのか ドローンでロシア爆撃機を破壊

画像提供, Ukraine Presidential Press Service/EPA-EFE/Shutterstock

画像説明, 「クモの巣」作戦について話し合うウクライナのゼレンスキー大統領とウクライナ保安庁(SBU)のマリュク長官

それは驚くほど巧妙な攻撃作戦だった。前例がなく、大規模で、準備に1年半を要した。

今月1日にウクライナのドローン(無人機)が100機以上、国境から遠く離れたロシア各地の空軍基地を攻撃した。標的は、核兵器を搭載できる長距離爆撃機だった。

「クモの巣」と名付けられたこの作戦の規模は、開始直後から明らかになった。複数の時間帯がまたがるロシア全土で、爆発が報告されたのだ。北は北極圏のムルマンスクから、東はウクライナから8000キロ以上離れたアムール地方まで。広大な範囲に、その影響は及んだ。

ロシア国防省は、ロシアのムルマンスク、イルクーツク、イヴァノヴォ、リャザン、アムールの5地域で攻撃されたと認めた。ただし、航空機が被害を受けたのはムルマンスクとイルクーツクのみで、他の地域での攻撃は撃退したと、同省は述べた。

作戦直後に公開された写真では、ウクライナ保安庁(SBU)のヴァシル・マリュク長官が飛行場の人工衛星画像を見つめている。画像からは、ロシアが列挙した地名にある基地がはっきり見て取れる。

マリュク長官はドローンをロシア国内に運び込んだ方法を、次のように説明した。

いわく、ドローンを木製コンテナに収め、そのコンテナをトラックに載せた。トラックの荷台は、遠隔操作で取り外し可能な屋根で覆っていた。

その状態でトラックは、標的となる空軍基地の近くまで移動した。運転手たちは、積み荷が何なのか知らなかったという。トラックが目的地に到着すると、遠隔操作でドローンが出発し、標的へと向かったのだという。

「(ドローンは)トラックの荷台に載っていて、飛び上がったり浮き上がったりしないよう、こちらは石を投げていた」のだと、長官は話した。

通信アプリ「テレグラム」のロシア系チャンネル「バザ」が掲載した、未確認の報告によると、トラックの運転手たちは一様に、ロシアの複数の場所に木製コンテナを運ぶよう、ビジネスマンから依頼されて予約を受け付けたのだと話している。「バザ」は、公安当局と結びつきがあることで知られている。

運転手の中には、受注後に電話でトラックをどこに停めるか追加の指示を受けたものの、実際にトラックを停めたところでトラックからドローンが飛び出すのを見て驚いたという者もいた。

作戦を直接指揮したウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は1日夜、ソーシャルメディアで作戦成功を誇らしげに報告した。それによると、ドローン117機を使ったこの大胆な攻撃は、準備に「1年6カ月と9日」かかったのだという。

大統領はさらに、標的となった場所の一つはロシア連邦保安庁(FSB)の事務所の真横だったとも明らかにした。

ゼレンスキー氏は、作戦を支えた全員をすでに「ロシア領内から脱出させた(中略)今はもう安全だ」と述べた。それでもロシアは、作戦にかかわった複数人を拘束したとしている。

すでに削除されたテレグラム投稿で、イルクーツク州ウスチクート市の当局は、ベラヤ空軍飛行場へのドローン攻撃に関連してウクライナ生まれの37歳男性を探していると述べていた。

SBUが公表した画像では、倉庫の中で黒い小型ドローンが数十機、木製コンテナに整然と並んでいる。ロシアの軍事ブロガーたちによると、撮影場所はチェリャビンスク市内だという。

イギリスを拠点とするドローン専門家のスティーヴ・ライト博士はBBCに、ロシア軍機の攻撃に使われたドローンは比較的重い積載物を運ぶ単純なクアッドコプターだったと説明した。

今回の攻撃が「極めて異例」なのは、ドローンをロシアに運び、遠隔操作で発射・制御できたこと、その能力だったと博士は話した。これはおそらく、人工衛星かインターネットを経由して実現したのだろうと、博士は見ている。

ゼレンスキー大統領は、発射したドローン117機はそれぞれ専属の操縦士が担当していたと説明した。

画像提供, ウクライナ保安庁

ライト博士はまた、ドローンはGPSを使って飛行できた可能性が高いが、ドローンを遠隔で手動で操縦することで、ロシアの現地にある妨害措置を回避できた可能性もあると話した。

ウクライナ政府は、ドローンの出どころについて詳細を明らかにしていない。しかし、ウクライナは開戦以来、きわめて効率的にドローンを製造できるようになっている。そのため、今回の作戦で使われたものは国内で製造された可能性がある。

「ロシアは実際、かなり具体的に被害を受けた。それは当然のことだ」と、ゼレンスキー氏は毎晩定例の動画メッセージで述べた。

ウクライナによると、ロシアの戦略爆撃機41機が被弾し、「少なくとも」13機が破壊された。ロシア政府は、一部の機体が損傷したという以上には、損害について認めていない。

BBCが検証したビデオには、ムルマンスクのオレネゴルスク空軍基地とイルクーツクのベラヤ空軍基地で損傷した航空機が映っている。

標的になった戦略ミサイル搭載爆撃機には、Tu-95、Tu-22、Tu-160などが含まれるとみられる。修理は困難で、製造もしていないため、代替機の調達は不可能だ。

米カペラ・スペース社が公開したレーダー衛星画像には、ベラヤ空軍基地で少なくとも4機のロシア長距離爆撃機が深刻な損傷を受けたか、あるいは破壊された様子が映っている。これは、同じくTu-95爆撃機への攻撃を撮影したウクライナのドローン映像とも一致する。

「戦争の法と慣例に則り、我々は完全に正当な軍事標的、すなわち我々の平和な都市を爆撃する軍用飛行場と航空機を特定した」と、SBUのマリュク長官は述べた。

ロシアのTu-95爆撃機は直近では5月末にも、ウクライナに対し大規模なKh-101ミサイル攻撃を展開したと言われている。爆撃機はそれぞれ誘導巡航ミサイルを8基搭載可能で、各ミサイルは400キロ級の弾頭を搭載している。

「クモの巣」作戦では、A-50軍用偵察機も標的にされたと言われている。A-50はロシアにとって攻撃力に加え、ウクライナのミサイルを迎撃する防衛力をも強化する、重要な航空機だ。

ロシアが保有するA-50の数は不明だが、ウクライナ国防省のキリロ・ブダノフ情報総局長は2024年2月の時点で、その数を8機と見積もっていた。つまり、わずかな損失や損害でも、ロシアにとって深刻な打撃となる可能性がある。

SBUはソーシャルメディアへの投稿で、「クモの巣」作戦でロシアは70億ドル相当の損失を被ったと述べた。

ロシア国営メディアは今回の攻撃を、ほとんど話題にしていない。6月1日のゴールデンタイムのテレビ番組は、地方当局の声明を引用するだけにとどまった。2日の朝になると、この作戦の話はニュース速報から消えていた。

他方、ウクライナの人たちはインターネット上やそれ以外の場所で、「巨大」な作戦の成功を祝い続けている。

「もちろん、現時点で全てを明らかにすることはできない」とゼレンスキー氏はテレグラムに書いた。「だが、このウクライナの行動は間違いなく歴史の本に残る」。

(追加取材:クマール・マルホトラ、トム・スペンサー、リチャード・アーヴァイン=ブラウン、ポール・ブラウン、ベネディクト・ガーマン)

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