[サイエンス Report]中国、南鳥島周辺の海底調査強化…レアメタルの論文数7倍に 「莫大な量の資源存在」

 小笠原諸島・南鳥島(東京都)周辺の北西太平洋の公海で、中国がレアメタル(希少金属)を含む鉱物の調査を強化している。この海域で海底資源を調査し、国際学術誌に掲載された中国の研究論文が2020~24年に急増し、前の5年間(15~19年)の7倍超に増えたことが、東京大と読売新聞の共同分析で明らかになった。専門家は「将来の資源開発を視野に入れ、南鳥島周辺で調査を進めている」とみる。(笹本貴子、船越翔)

■マンガン団塊

 コバルトやニッケル、レアアースなどの希少金属はハイテク製品、電気自動車、風力発電機の部品などで需要が急速に伸びる一方、鉱山のある国が限られ、供給不足が心配されている。

 そこで海底資源が脚光を浴びている。豊富にあるのは南鳥島、米ハワイ沖から東太平洋に広がる「クラリオン・クリッパートン海域(CCZ)」、インド洋が知られる。今年6月には東京大や日本財団が、南鳥島周辺の日本の排他的経済水域(EEZ)内の海底で、国内消費量の75年分以上のコバルトなどを含む球状の鉱物「マンガン団塊」の鉱床を発見したと発表した。

 ただ、南鳥島周辺で資源があるのは水深数百~数千メートルの深海だ。本格的に開発するには資源量や分布などの科学的な予備調査が欠かせない。

■計画発表後に急増

 南鳥島周辺は、マンガン団塊、レアアースを高濃度で含む「レアアース泥」、コバルトを多く含む鉱物の塊「コバルトリッチクラスト」が広く存在する。東大の加藤泰浩教授(地球資源学)らと読売新聞のチームはこの3種類の資源について、南鳥島周辺2000キロ・メートル四方の範囲で、分布や量、成因などを調べたとする国際誌の研究論文を分析した。論文の検索は米グーグル社のサービス「グーグル・スカラー」を使った。

 その結果、20年1月~今年10月末に中国の研究論文が計66本、国際学術誌に掲載され、15~19年の9本に比べて大幅に増えたことがわかった。特に多いのがマンガン団塊(26本)とレアアース泥(25本)に関する論文で、15~19年は各1本だった。中国は17年に深海資源の開発を推進する計画を発表している。

 中国の研究は主に政府系研究機関や国立大が、「国家自然科学基金」などの国費で行っていた。調査エリアは南鳥島の南から東に広がっており、日本のEEZ境界付近での調査も確認された。日本の論文は15~19年に26本、20~24年に30本と横ばいで、多くはEEZ内の調査だ。

■「商業開発視野に」

南鳥島周辺で取れたマンガン団塊の断面

 日本や中国を含む170の国と地域が加盟する国連海洋法条約では、EEZ内の開発権は各国に認めている。一方、公海の海底鉱物資源は「人類共同の財産」として、国連の国際海底機構(ISA)が管理する。

 ISAは現在、特定の国や企業が資源取引の目的で公海で採掘する商業開発を認めていない。商業開発を行う際の国際ルールが整っていないためだ。

 ただ、ISAは商業開発に向けた準備として、世界の特定の海域で鉱物を独占的に探査できる権利を、国や企業などに計31件与えている。中国が世界で持つ独占探査権の数は、他のどの国よりも多い計5件。このうち2件は南鳥島周辺で、14年にコバルトリッチクラスト、19年にマンガン団塊の探査権を得た。

 共同調査で明らかになった中国の動向について、加藤教授は「南鳥島周辺には高濃度で 莫大(ばくだい) な量の資源が存在し、立地的にも陸揚げする港に比較的近いなど開発に適した条件がそろう」と話し、「中国はこの海域に狙いを定め、商業開発が解禁され次第、すぐに南鳥島周辺で開発ができるよう、膨大な国費をかけて資源調査を進めている。陸上の鉱山の権益確保も積極的に進めており、陸海両面で希少金属のサプライチェーン(供給網)を支配されてしまう」と危機感を示す。

■策定の行方に注目

 公海の商業開発については、ISAがルール策定の議論を進めている。ただ開発に反対する国もあり、すぐに決まるかは不明だ。

 海洋政策に詳しい東海大学の山田吉彦教授は「論文数の増加は、国策として海底資源の開発に力を入れている証拠だ。ISAで中国の発言力は増しており、大量の資源調査データを背景に、開発権のルール策定や審査で主導権を握る可能性もある」との見方を示し、「公海の開発の行方が不透明な今、日本は採掘や環境影響評価の技術を磨くべきだ」と指摘している。

マンガン団塊密度 米ハワイ沖の2倍

 南鳥島沖は海底地形の影響で南極からの海流が集まる。深海に沈んだ魚の骨などが中核となり、数百万~数千万年かけて金属が断続的に付着して、手のひら大のマンガン団塊になると考えられている。日本財団が豪企業に依頼した分析によると、鉱床全体の資源量はコバルト62万トン、ニッケル66万トン。団塊のコバルト濃度は、世界生産量1位のコンゴ民主共和国の鉱石に匹敵するとわかった。

 米ハワイ沖のCCZにも、世界の陸上総埋蔵量に近い量の重要な鉱物が眠っているという。分析では南鳥島のマンガン団塊の密度はCCZの約2倍で、団塊に含まれるコバルトの濃度は1.6倍だった。ニッケル濃度はCCZが3倍だった。海野光行・日本財団常務理事は南鳥島鉱床の資源価値について「他の陸上鉱山やCCZの鉱床にひけをとらない」と話す。

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