世界はディストピアに向かってる? 「2027年から人類はAIとともに暗黒期へ」

Image: Rokas Tenys / Shutterstock.com

AIがもともと作られた目的と今の使い方、だいぶ変わってきましたもんね。

Alphabet社の次世代技術の開発をするプロジェクト旧Google Xで最高業務責任者を務めたモー・ガウダット氏は、世界は近い将来、避けられないAIディストピアへ向かって猛スピードで進んでいると意見を述べています。

ガウダット氏が描く未来

「私たちは、これまでとはまったく異なる世界に備えなければなりません」とガウダット氏はポッドキャスト番組『Diary of a CEO』のインタビューで語っています。自由、人と人とのつながり、責任、現実感、そして権力といった人類の根本的な価値が、AIによって大きく揺らいでいると指摘しています。

このディストピア(暗黒期)は遠い未来ではなく、すでに昨年からその兆候が見え始めていて、来年にはさらに顕著になるといいます。ガウダット氏は始まりは2027年に訪れ、その後12年から15年ほど続くと予測しているそうです。

そう語るガウダット氏ですが、実はもともとこんな風に悲観的な見方をしていたわけではありません。しかし、AI技術の急速な進歩を目の当たりにして、ディストピアは避けられないと考えるようになったとのこと。

「これを変えられるかどうかは私たち次第ですが、正直なところ、今の人類にはそのために必要な意識や集中力が欠けていると思います」と話しました。

またガウダット氏によると、ディストピアをもたらす主な原因はAIそのものではなく、また多くの人が想像するようなAIが全てを支配するというシナリオでもなく、AIはもともと存在する社会の問題や、人間の愚かさを増幅するツールであるだけなんだそう。

AIそのものに問題はありません。問題は、機械が台頭するこの時代における人類の価値観です。

ユートピアを目指したはずが、ディストピアへ

AIは本来、ディストピアを生み出すために開発されたものではなく、むしろ理想的な社会の実現を目的としていました。日常的な作業を自動化することで、世界中の労働者の負担を減らし、生産性を維持したまま貴重な時間を取り戻すという構想でした。

ところが現実には、資本主義という価値観が支配するなかで、その理想は利益追求のために変わってきてしまいました。AIによる労働市場の変化はすでに始まっていて、仕事の概念そのものが変わりつつあります。負担を減らすどころか、AIで生産性を高めた企業は人員削減をしたり、採用をストップしたり、また既存の従業員にさらに多くの仕事を任せるようにもなっています。

これは偶然ではないとガウダット氏はいいます。これまでのあらゆる技術は人間の能力や価値観を拡大してきましたが、現代の人類が最も重視している価値観は「資本主義」だからです。

こうした理想と現実のずれは、これまでの技術革新でも繰り返されてきました。

ガウダット氏は、

ソーシャルメディアは、どれほど私たちをつなげ、また孤独にしたでしょうか。携帯電話は、どれほど私たちの労働時間を減らしましたか?昔Nokiaの携帯電話の広告ではみんなパーティしたりして集まっている様子を描いていましたが、今の現実はそうでしょうか?

と問いかけています。

人間の悪意

AIが制御不能なまでに広げてしまうもののひとつに、「人間の悪意」があるとガウダット氏はいいます。 この1年ほどのニュースを見ていれば、さもありなんというところです。AIによるディープフェイクポルノや自律型兵器を含む軍事利用、さらには軍事分野での生成AI活用など、AIは人間の最悪な面を後押ししているのがわかります。

最近では、イーロン・マスクのチャットボット「Grok」が新たに導入した画像・動画生成機能が、女性を過度に性的化して描くために使われていることが話題になりました。

また、AIを使った詐欺、特に暗号資産詐欺は急増しています。ブロックチェーン調査会社TRM Labsの報告では、ディープフェイク技術の影響で暗号資産詐欺が昨年比456%も増えたといいます。さらに核戦争の専門家は、近い将来AIが核兵器の制御に関わる危険性を懸念しています。

加えて、AIは大規模な公共監視技術の高度化にも利用されています。ガウダット氏が言う「権力の集中」が進む世界では、これは大きな問題となります。すでに多くの国でAIによる監視システムが稼働していますが、中国の大規模監視網がその代表例です。アメリカでも移民や旅行者のSNSをAIで監視する仕組みが導入されています。

全てが悪ではないが、課題は残る

こうした懸念がある一方で、AIは科学の進歩にも貢献しています。特に医療製薬研究などでは、すでに目に見える成果が出ています。ガウダット氏は、このような進展ならば将来的にAIをユートピア的に活用することも可能だと考えています。

しかしその前に、人類はAIのもたらす危険と正面から向き合わなければなりません。

「大事なのは、人々が黙っていられる限界があるということを政府に理解させることです」と述べ、AIそのものではなく、その使い方を規制すべきだと強調しています。

「ハンマーの形を変えて、人を殺せないようにすることはできません。しかし、ハンマーで人を殺す行為を法律で禁じることはできます」とたとえて説明しています。

AIというハンマーはすでに私たちの手の中にあり、これからも存在し続けます。残る課題は、私たちにその「殺人」を禁じる法律を作る意思があるかどうかなのです。

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