不労所得を得る大学生、風俗店で働く女性…相続税のないジャカルタ 「世界1位」の都市の〝ひずみ〟

全身が病に侵された人間の体――。インドネシアの首都ジャカルタをあえて例えるのなら、浮かんできたのはこんな表現でした。 2025年11月、国連は「世界で最も人口の多い都市圏」に人口約4190万人のジャカルタ首都圏を選びました。それまで1位だったのは東京でした。 世界最大の都市の足元では何が起きているのか……。現場取材で見えてきたのは、極端な一極集中が生み出すいびつな「ひずみ」でした。 平日の朝夕に必ず訪れるのは、日本のゴールデンウィークのピーク時のような「世界最悪レベル」と言われる慢性的な渋滞です。 2050年までに北部の95%が「沈む」と予測されるなど、二度と元に戻せない地盤沈下も喫緊の課題です。解決策の見えない格差や若者の就職難も起きています。 血管(交通網)が詰まり、骨格(地盤)がゆがみ、臓器(経済、雇用)が不全化する――。人が集まり、膨張を続けた末に、東南アジア屈指の大都市にまで発展したジャカルタの都市としての許容量は限界に近づいています。

社会の中の格差も深刻な問題です。 日本から訪ねてきてくれた知人らはまず、こう口をそろえます。 「ジャカルタがこんなに発展しているとは思わなかった」 そして、ジャカルタで数日過ごすと、ほぼ確実にこう話します。 「格差やばいね」 在留邦人約1万5千人の大半を占める日系企業の駐在員や、その関係者を含む「中間層」以上をターゲットに乱立するショッピングモールや高層マンションの足元には、貧しい人々が住む貧困街が広がります。 小さな子どもを連れて、空き缶を手に物乞いをする人の姿が見られます。 渋滞の車列にいる車中で外から窓をたたかれ、小銭を懇願された経験のない人は恐らくいないでしょう。


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世界第4位の人口約2億8千万人を抱え、東南アジア諸国連合(ASEAN)から唯一G20に加盟するなど、「グローバルサウスの雄」とも表現されるインドネシアは、2045年までの先進国入りを掲げ、ミドルパワーの国として世界での存在感を増しています。 そんな国の首都で感じる「格差」の正体。常軌を逸した渋滞や、例年5%の経済成長を記録しているにもかかわらず、停滞する労働市場。 YouTuberの中には、「ジャカルタの格差がすごい!」などと、街の風景を映した動画を公開していることもあります。 そうした映像は都市の一面を知るきっかけにはなりますが、印象だけで語るのではなく、統計や現地取材などの客観的な根拠をもとにジャカルタの実像を可視化したいと考え、連載「限界都市ジャカルタ 膨張の果てに」を配信しました。

取材では、記事になるかどうかは別として、自分の中に聖域を作らないことを決め、ジャカルタのあらゆる面の取材を試みました。 富裕層一家に生まれた女子大学生(22)は親から贈与された賃貸アパートから不労所得を得ています。 正確な所得額は明かしませんでしたが、部屋数はおよそ20室だそうです。 一般に「コス」と呼ばれるジャカルタのアパートの家賃は1カ月約200万ルピア(約1万8千円)ほど。単純計算で1カ月の家賃収入は約4千万ルピア(約35万円)で、ジャカルタの最低賃金の約7倍に上ります。 特に就職活動もしておらず、卒業後は親族のコネで大手企業に入社するつもりだといいます。インドネシアには日本のような相続税がなく、「富める者」がさらに富む一因とも言われています。 一方、ジャカルタにある風俗店で働く女性(25)にも話を聞きました。 中部ジャワ州の地元では1カ月の最低賃金が200万ルピア(約1万8千円)台です。高校卒業後、地元で職が得られず、最低賃金が全国で唯一500万ルピア(約4万3千円)台のジャカルタに出てきました。 ところが、ジャカルタには年に数十万人の大学などの高等教育修了者が職を求めて地方から集まります。 最低賃金でも、正規職であれば一つの席に数百人の応募が寄せられることも珍しくなく、女性は職を見つけることができませんでした。 「仕事を選べる状況ではなかった」と、同じような境遇にある女性が集まる風俗店に入りました。 客1人を相手にして得られるのは20万ルピア(約1700円)。月の収入は1千万ルピア弱(約8万8千円)とのこと。「今の収入に文句はない。仕事場に行けば友達とも会える」と語りますが、「先のことは知らない」と将来への漠然とした不安が見え隠れしていました。

withnews by 朝日新聞
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