小型原子炉って大丈夫なの? 識者に聞いてみた

Image: John Keeble/Getty Images|ロールスロイスの小型原子力発電機「Rolls Royce Micro」(Space-Comm Expo 2023)。協業先探しで暗礁、との報道もあるけど

イラン戦争でホルムズ海峡が封鎖され、熱い視線が集まる原子力。

原子力エネルギー」といえばこれまでは重い粒子を分ける核分裂のことでしたが、最近は軽い粒子をくっつける核融合も、環境負荷が軽いってことで注目を浴びています。

代替エネルギーに批判課題はつきものですが、わけても反対が根強い原子力。それでも急ピッチで開発は進んでいて、政府が絡むケースも少なくありません。安全と技術革新のバランスを図ることが何よりも重視される分野なのですが、トランプは昨秋、米国の原子力発電のキャパを上げる大統領令を発布。過疎地、基地、営利活動向けの小型原子炉の実用化も現実味を帯びてきました。

小型原子炉が軍用に開発されたのは割と古く、1939年のこと。2018年には、NASAも宇宙船用の軽量の小型原子炉デモしてたりします。ただ、一般向けに脚光を浴びたのは、米エネルギー省が昨年ぶち上げたDOMEプロジェクトがきっかけでした。これはアイダホ国立研究所に世界唯一無二のマイクロリアクター実験施設「DOME」を新設し、早ければ2026年春にも最大出力20MWの世界初の実用実験を行なうというもの。

2026年春って…今やねん!というわけで今回は「小型原子炉」をテーマに専門家と業界のみなさまに現況、メリット&デメリット、リスクを伺ってみました。

Ralf Kaiser

実験核物理学者(国際理論物理学センター)、国際原子力機関(IAEA)元物理学研究部門長

原子炉は随分と長い間、技術の進歩が見られなかった分野です。小型原子炉(SMR)はモダンな技術をより安全に市販化する方法を提供してくれるので、それは歓迎すべき点ですよね。SMRはもともと「大量につくって頒布し、何十年か稼働させたら、あとは原子炉ごとまるまる取り換えるだけ」という発想から生まれたものなんですね。最新のSMRを見ると、実用化に近づいてはいるけど、当初の発想からはかけ離れたものになっています。自分は今でもいいアイデアだったのにな、と思っているのですが。

SMRには発電以外の用途もあります。産業用熱利用も考えられるし、船舶推進エンジンとしても使えるので、大型貨物船の脱ディーゼルエンジンにもなります。宇宙開発(月、火星の基地など)においても小型原子炉は必要不可欠です。

Edwin Lyman

原子力安全担当ディレクター(憂慮する科学者同盟

小型原子炉のことは、絶対みんな警戒しないとだめ。制御不能なテック業界が押しつけてくる危なくて無価値な製品は無数にありますが、小型原子炉もまた、誰も欲しがってないし、必要とも感じていない”イノベーション”。恐ろしく採算の合わないものだし、推進派の希望する規模に近いものがどこかで導入されれば、全国民の電気代が上がるのがオチでしょう。

もっと最悪なのがコスト。小型原子炉はとてもコストがかかるものなので開発側はあちこちでコストカットの近道をするんですね、一般人の健康、安全、環境保護なんて二の次で。

規制当局の承認が得られても、小型原子炉には通常型原子炉に見られるような予備冷却系もなければ、放射線遮蔽設備も格納システムもありません。しかも設置場所は人口密集地域の近くで、配置される人員も必要最小限の技師と警備員だけ(人がいるだけまだマシ)。防御が無に等しいので、犯罪組織の手に渡ればテロ兵器にも充分なりえてしまう

とはいえパニックするほどのことではないのが不幸中の幸いで、小型原子炉が近所に今すぐ来る可能性はそんなに高くありません。小型原子炉開発各社が掲げる開発タイムラインは非現実的なものですし、初代の製品は巨大、不安定、危険すぎて操業不能になることが予想されます。仮に導入されたとしても話題性だけで、本当に頼りになる安い電力が必要なカスタマーの役には立たず、むしろ足手まといになって終わりかと。

John Jackson

国立技術ディレクター(米エネルギー省電子力発電局原子炉開発事業部

小型原子炉の真の強み。それは比較的シンプルで汎用性が高いことにあります。トラックや貨物列車で運べるので、長年高い電気代に悩まされてきた地域や電気の通らない地域(軍駐屯地、過疎地域、災害復旧本部、商用地域など)にも安定した電力を供給できます。給油なしで数年稼働でき、セルフ制御で、組み立ては全部工場で行ない、現場には設営するだけ。バリュープロポジション(提供価値)が従来の原子力発電とまったく異なり、これまでにない電力調達に道を拓くものといえます

もちろん越えなければならないハードルはあります。まず、初期投資が高くつくこと。ただこれについては、数が増えれば製造プロセスが成熟し、大幅なコストダウンが見越されます。アイダホ国立研究所が新しい設計のテストと認証を行なうようになれば、政府の強力な後押しもあることだし、1年以内にはデモまで漕ぎ着けるとの予想もあり、このテクノロジーの向かう未来には期待しかありません。

Carlos Romero Talamas

Terra Fusion創業者兼CEO(メリーランド州の原子力発電系スタートアップ)

核分裂のリアクターか核融合のリアクターかで回答は違ってきますね

核分裂の場合は掘削から精製、廃棄にいたるまで、全ライフサイクルを通して安全を確保することの難しさが大きな課題です。核分裂で生まれる核廃棄物は極めて毒性が高くて、それが何千年も続きます。さらに、燃料生成設備と同じものを使って兵器グレードのものも作れてしまう。また、核分裂の炉心に残る燃料は何か月も、場合によっては何年も燃え尽きることがありません。

臨界を超える(メルトダウン)ことのないよう炉心を設計したところで、備蓄エネルギーが巨大なので、万一の事故で広い範囲に放射能汚染が広がる可能性もあります。サイズの大小を問わず、核分裂で発生する使用済み核燃料の廃棄を安全に行なうことは、今なお未解決の課題です。

逆に核融合の小型原子炉は、まだ実用前ですが、安全性がとても高いんですね。操業中、炉心に貯まる燃料はわずか数秒分。なので備蓄エネルギーも核融合より桁違いに低く抑えられます。仮に数年燃え続ける燃料がたまったとしても、安全冗長性を備えたタンクに簡単に隔離できます。

初代システムに使われるのは重水素(デューテリウム)と三重水素(トリチウム)。どちらも水素の同位体ですが、放射性物質は三重水素のほうだけです(重水素は水に自然に入ってるもの。毎日の飲み水にも入ってる!)。小型原子炉内で三重水素の生成にリチウムが使われる場合もあるので、主な核燃料は非放射性物質。だから通常の貨物で輸送できるのです(軍による護送の必要がない!)。

重水素と三重水素の核融合で出る物質はヘリウムといって人体に害のないものであり、温室効果ガスではありません。三重水素の崩壊エネルギーは低く、容器(工業用ガスボンベ)に格納してしまえば中身が放射性物質だと知る由もありません。核融合システムから出る物質のなかには操業中、放射性を帯びるものもありますが、崩壊は比較的早く、2年、長くて数十年の”冷却”を経て安全にリサイクルできる状態になります

核分裂も核融合も適切な規制の枠組み、全ライフサイクルを通した監視体制は必要ですが、核融合のほうが安全で管理もしやすいことは確か。核融合システムについては楽観し過ぎない慎重さも必要ですが、こと核融合の小型原子炉に関してはワクワクを禁じ得ません

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