コラム:パウエルFRB議長解任シナリオ、影響過大で市場は織り込めず

 4月17日、 米連邦準備理事会(FRB)議長が解任されるという事態になれば、世界貿易戦争と同様、どこからどう見ても市場に悪影響が及ぶことを投資家は知っている。写真は2017年11月、パウエル氏(右)をFRB議長に指名したトランプ大統領(当時)。ホワイトハウスで撮影(2025年 ロイター/Carlos Barria)

[オーランド(フロリダ州) 17日 ロイター] - 米連邦準備理事会(FRB)議長が解任されるという事態になれば、世界貿易戦争と同様、どこからどう見ても市場に悪影響が及ぶことを投資家は知っている。同時に、あまりにも影響が広範に及ぶため、リスクを適切に定量化できず、市場はあらかじめ転ぶと知りながら杖(つえ)を用意できない状態だ。

トランプ米大統領は17日、自身が2017年に任命したパウエルFRB議長との対立を激化させた。ソーシャルメディアに「パウエル氏の退任が早すぎるということはない」と書き込んだ後、記者団にパウエル氏は「政治的な駆け引きをしている」と不満をあらわにした。

トランプ氏がソーシャルメデイアでパウエル氏が利下げしないと何度も批判を繰り広げているため、投資家がこれを軽視するのも無理はないが、軽視すべきではない。

17日の出来事の数日前、米最高裁は、トランプ氏が労働関係の行政機関の民主党系幹部を解任することに道を開いたばかりだ。一部の弁護士やアナリストらは、これでパウエル氏らFRB幹部の地位も危うくなりかねないと指摘している。パウエル氏自身は16日、これはFRBには当てはまらないとの考えを示したが、確信は持っていない。

今回のトランプ氏による攻撃は、米国および世界の市場にとって極めて危険な時期に行われた。ドルと米国債への信認、米経済政策への信頼感、そして米国の制度と統治への信用が、今ほど低くなったことは滅多にない。

この状況は、米国債の「タームプレミアム」に上昇圧力をもたらしている。タームプレミアムとは、米政府に対して短期の貸し付けを回転させていくのではなく、長期で資金を貸し付けることのリスクに対して投資家が要求する対価を示すもので、その水準は幾分あいまいだ。同プレミアムは現在、10年ぶりの高水準に達している。

投資家が神経質になる理由は分かりやすい。中央銀行の独立性が守られるという信頼感は、現代金融システムの根幹を成している。なぜなら、政治に影響された金融政策は、短期的には人気が高く景気を刺激するかもしれないが、長期的には害をもたらすからだ。

バーナンキ元FRB議長が2010年に述べた通り、「金融政策への政治干渉は、好景気と不況の望ましくないサイクルを生じさせ、最終的には経済の不安定化とインフレ率の上昇につながりかねない」

<知っていても織り込めず>

今の状況がとりわけ危険なのは、投資家はリスクを重々承知しながらも、それを相場に十分織り込めていないからだ。タームプレミアムは上昇したが、実際にFRBの独立性が疑われた場合には、とてもこの程度の上昇では済まないだろう。リスクはあまりに巨大で、潜在的な影響の範囲はあまりに広い。

貿易戦争についても、実質的に同じことが起きている。関税はトランプ氏が選挙戦で掲げた最優先経済政策であり、その政策に基づいて同氏は選挙に勝った。トランプ氏が自身を「関税マン」と称したのは、理由あってのことだ。

それでも、トランプ氏の勝利後に米国市場は上昇を続けた。これは必ずしも、投資家がトランプ氏は口先だけだと高をくくったからではなく、全面的な世界貿易戦争のリスクを相場に織り込む明確な方法がなかったからに過ぎないだろう。従って、投資家はトランプ氏の「解放の日(相互関税の発表日)」が来ることを前から知っていたのに、実際にその日が来ると相場は大荒れになった。

S&P500種総合株価指数は3日間で15%下げ、米国株の時価総額6兆ドルが吹き飛んだ。米長期国債も売られて30年債利回りの週間上昇率は1982年以来で最大となり、ドルは3%下落した。

米国債とドルの下落は特に警戒を要する。これらは通常、金融や経済、政治が危機を迎えると上昇するからだ。金価格とスイス・フラン相場が数十年ぶりの上昇率を記録する一方で、「安全資産」とされた米国債は急落した。

ホワイトハウスとFRBの緊張が高まる中、これは市場、特に米市場にとっての警鐘だ。トランプ氏が実際に、パウエル氏を来年5月の任期前に解任したとしても、投資家は「知らなかった」と言い訳はできない。しかし、解任の影響が大き過ぎて織り込めない以上、知っていたかどうかは問題にならないだろう。

(筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

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筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

Jamie McGeever has been a financial journalist since 1998, reporting from Brazil, Spain, New York, London, and now back in the U.S. again. Focus on economics, central banks, policymakers, and global markets - especially FX and fixed income. Follow me on Twitter: @ReutersJamie

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