チャーリー・カーク殺害「トランスジェンダーの思想」が薬きょうに書かれているとする報道は誤りだった

右派活動家チャーリー・カーク氏が9月10日に殺害された事件で、容疑者が使った銃の薬きょうには「トランスジェンダーの思想」が書かれていると報じられていた。

しかし、この情報が誤りだったことが明らかになった。

また、現場から押収された銃や薬きょうから、容疑者がインターネットのミーム文化に精通していた可能性が浮かび上がってきた。

この事件で当局は12日、22歳のタイラー・ロビンソン容疑者の身柄を拘束したと発表した。

ユタ州のコックス知事は12日の記者会見で、ロビンソン容疑者の逮捕と同時に、薬きょうに刻まれた文言を明かした。

この発表に先立ち、ウォールストリートジャーナルなどが、薬きょうには「トランスジェンダーや反ファシズムの思想が刻まれていた」と報じていた。

しかしコックス知事によると、押収された4つの薬きょうにはトランスジェンダーと関係するメッセージはなかった。

4つの薬きょうのうち3つに書かれていたのは、多くの人には馴染みの薄いネット用語だった。

そのうちの1つで、カーク氏を撃った銃弾の薬きょうにはこう刻まれていたという。

「Notices bulges. OwO, what’s this?（もっこりに気づく。OwO、これは何？）」

インターネットミームをまとめたウェブサイト「Know Your Meme（ノウ・ユア・ミーム）」によると、このフレーズは2015年頃に広まったミームで、ファーリー（擬人化された動物の愛好者）が、別のファーリーのズボンの「膨らみ」に気づいて「OwO」という目を見開いた顔文字で驚くことを意味している。

薬きょうにこのメッセージ刻まれていたことが、何を意図していたのかはわかっていない。ネットミームをただ単に意味なく書いたという可能性もある。

コックス知事によると、現場から見つかった発砲されていない3発の弾丸にも、それぞれ文字などが刻まれていた。

その1つには「Hey fascist, catch!（おいファシスト、受け取れ！）」という言葉と「⬆️➡️⬇️⬇️⬇️」という矢印の列が書かれていた。

コックス知事はこのフレーズについて「書いてある通りだ」と述べたが、もう少し説明が必要だろう。

発表の後、この矢印は、ゲーム『ヘルダイバー2』のボタン操作と関連があると指摘する声が上がった。矢印は『ヘルダイバー2』で、爆弾を空中投下する時に使われる。また、同ゲームでプレイヤーは反ファシストではなく、ファシスト国家側として異星人の侵略と戦う。

別の弾丸には「If you read this you are gay, lmao（これを読んでるお前はゲイだ、笑）」という、長年ネット上で同性愛嫌悪的なジョークとして使われてきた言葉が刻まれていた。

唯一ネット文化に由来しないと思われるのが、4発目に書かれていた「Oh bella ciao, bella ciao, bella ciao, ciao, ciao.」というメッセージだ。

これは、イタリアの民謡「Bella Ciao（ベラ・チャオ）の歌詞だと考えられている。

「Bella Ciao」は19世紀にイタリアの稲作労働者らが歌った曲で、第二次世界大戦中には、ファシズムに抵抗するレジスタンスの歌になったと考えられてる。

しかしジョージ・メイソン大学による調査では、この曲がファシズムへの抵抗運動で歌われたことを示す証拠はほとんどない。

またThe Vergeによると、「Bella Ciao」は近年、『ヘルダイバー2』や、第二次大戦をテーマにした戦略ゲーム『Hearts of Iron IV（ハーツオブアイアンフォー）』、ファーストパーソン・シューティングゲームの『ファークライ6』などのゲームに使われている。

LGBTQ+の人権擁護団体ヒューマン・ライツ・キャンペーン（HRC）は12日、ウォールストリートジャーナルに対し、記事の撤回と謝罪を求めた。

同団体は「銃撃事件とLGBTQ+コミュニティを結びつける虚偽の情報を広めることは、無謀で無責任な行為であり、特にトランスジェンダーの人々を危険にさらす」と非難している。

ウォールストリートジャーナルは12日、記事の冒頭に編注を追加した。

編注には「記事では捜査機関の内部情報をもとに、押収された弾薬には『トランスジェンダーや反ファシズムの思想』が刻まれていたと伝えていました。しかし司法省当局者が、アルコール・たばこ・火器爆発物取締局（ATF）によるこの情報について慎重になるよう呼びかけ、弾薬に刻まれたメッセージを正確に反映しているとは限らないと指摘したため、11日にこの点を記事に反映しました」と書かれている。

HRCのブランドン・ウルフ報道官は、「編注には、記事がもたらした被害や、危険にさらされたコミュニティについて何の言及もありません。また薬きょうの1つには反同性愛が刻まれていたことも触れられていません。LGBTQ+の人々、特にトランスジェンダーの人々に対する謝罪が必要です」とハフポストUS版に語った。