農林中金に新たな試練、破綻した米企業の売掛債権を出資先が保有

農林中央金庫が間接出資する米売掛債権買い取り(ファクタリング)会社が、米自動車部品メーカーの破綻に関連して多額の債権を抱えていることが分かった。経営立て直し中の農林中金にとって新たな試練となる可能性がある。

  農林中金と三井物産が大株主であるJA三井リースの完全子会社カツミ・グローバルが、17億5000万ドル(約2700億円)のファースト・ブランズに関連した債権を保有していたことがブルームバーグの報道で明らかになった。同社は先月、米連邦破産法第11条の適用を申請していた。

  現時点でJA三井リースやその株主である農林中金などに損失が生じるかは不明だ。農林中金は、金利上昇により収益性の悪化した外国債券の売却で農林中金は前期(2025年3月期)に1兆8000億円に上る純損失を計上。リスク管理体制の再構築に取り組んでいる最中、新たな懸案が持ち上がった格好だ。

  政府の有識者会議は1月、農林中金に対し、市場に精通した社外取締役の登用などを通じてリスク管理体制を強化するよう提言した。4月に新理事長に就任した北林太郎氏の下、同金庫は4-6月(第1四半期)決算で黒字転換を果たしており、通期での黒字確保を目指している。

  モーニングスターのマイケル・マクダッド氏は、「JA三井リースが損失を出せば親会社にも影響する」と指摘。そのため、農林中金や三井物産にはリスクを管理できる経営陣を選ぶ責任があるとの見解を示した。  

株主として注視

  JA三井リースは10日夕、保有する売掛債権の表面残高は17億5000万ドルだが、一部は投資家に売却しており実態は14億3000万ドルであると発表した。その上で適切に審査・リスク管理していると説明。同売掛債権の回収先はアマゾン・ドット・コムゼネラル・モーターズフォード・モーターなどが占めているという。

  農林中金は、JA三井リースは重要なグループ会社の1社であり、株主として引き続き状況を注視し適切に対応していくとコメントした。三井物も同様にコメントした。

  ファースト・ブランズが先月、破産法適用を申請した時点で、カツミは約17億5000万ドル相当の債権を保有していた。公聴会の記録によると、カツミの弁護士チャールズ・ケリー氏は、10月1日にテキサス州の破産裁判所で、「この手続きが迅速に進み、回収が実現することを期待している」と語っていた。

23年に買収

  JA三井リースは農林中金と三井物がそれぞれのリース会社を統合して08年に設立された。約2000人の従業員を抱え、幅広い業種にリース・金融サービスを提供している。23年にカツミを買収した。

  JA三井リースの大株主は農林中金の43.42%と三井物の42.26%で、三井住友銀行や三井住友信託銀行、三井住友海上火災保険などもそれぞれ1%強を出資している。25年3月期(前期)決算によると、総資産は約3兆4000億円、純利益は374億円だった。

  ブルームバーグ・インテリジェンス(BI)の伴英康シニアアナリストはファースト・ブランズの件は、必ずしも農林中金が過度にリスクを取ったというような事例ではなく、リスク管理について評判が「大きく毀損(きそん)するものではない」と指摘。債券投資の巨額損失を踏まえると、今回、「まとまった金額のエクスポージャー」が明らかになったのは不運だったと述べた。

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原題:Nochu Venture’s Exposure to First Brands Raises Risk Questions(抜粋)

— 取材協力 Yusuke Maekawa

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