サーモン輸入制限、K-POPイベント中止 各国に経済圧力繰り返す中国、依存脱却不可欠

大阪・ミナミの繁華街を行き交う訪日外国人客ら=11月30日午後、大阪市中央区(柿平博文撮影)

高市早苗首相の台湾有事を巡る国会答弁に反発した中国政府による日本への渡航自粛の呼びかけは中国リスクを改めて顕在化させた。政治問題を発端に中国が発動させる経済関連の制裁的措置は過去にも繰り返され、各国が標的となってきた。専門家は「中長期的に中国への依存度を引き下げ、中国政府の価値観に振り回されない態勢を構築すべきだ」と話す。

日本政府観光局によれば、今年1~10月の訪日外国人(インバウンド)の数は3554万人。このうち中国人(香港を除く)は820万人と全体の23%を占め、国・地域別でトップだ。また旅行消費額も中国人が1位で、観光庁の令和6年の推計では1兆7265億円と全体の21・2%を占めた。

第一生命経済研究所の嶌峰(しまみね)義清シニア・フェローによると、6年のインバウンド消費は8兆1257億円で、日本の名目GDPの1・3%に上った。賃金の上昇が物価高に追いつかず、消費も振るわない現状では「(渡航自粛の)国内景気への影響は無視できない」(嶌峰氏)という。

ただ中国リスクは常に存在し、いつそれが噴出するかは予測困難だ。嶌峰氏が中国を刺激する〝地雷〟として挙げるのは主に①領土・安全保障問題②民主化・人権問題③台湾問題-の3つ。①はどの国も抱える問題であることから、②③が中国特有のリスクといえる。

これらは中国国内の政治・経済情勢とも絡み合い、国民の不満を外に向ける〝ガス抜き〟的に発動されることも多いとみられる。中国政府が求心力維持のために、歴史問題などで度々切ってきた反日カードと似た構図ともいえる。

今回の渡航自粛のような制裁的措置は、日本以外の国もターゲットにされてきた。ノルウェーが2010年、中国人人権活動家にノーベル平和賞を授与した際には、ノルウェー産のサーモンをはじめとした水産物の輸入停止や検疫厳格化などを実施した。嶌峰氏によればこれによりノルウェーの中国国内での輸入サーモンのシェアは90%以上から1%程度にまで低下した。

韓国が16年に高高度防衛ミサイル(THAAD)の配備を決めた際も、中国国内でK-POPイベントが中止に追い込まれたり、韓国ドラマの放映が延期されたりした。

日本に対しては10(平成22)年に、尖閣諸島(沖縄県石垣市)沖で起きた中国漁船と海上保安庁の巡視船との衝突事件の際、中国がレアアースの対日輸出を事実上停止したことも。今回の件でも、レアアースの輸出制限や日系企業の中国国内での活動制限など、さらなる追加措置が出される可能性はある。

嶌峰氏は、中国政府のこうした姿勢について「日本のような民主主義国とは相いれない部分が多い」と指摘。今後もあつれきのたびに多分野で弊害が生じるおそれがあり、日本経済の安定的な発展のためには望ましくないとみる。

今後、中国リスクに振り回されないようにするには、輸出・輸入の両面で対中依存度の高い品目のシェアを分散化させる必要があるとしている。

また観光面では、中国に代わる訪日客として、中長期的な視野でインドやベトナムといった所得水準が伸びている国の取り込みを図るべきで、「食文化や生活文化に対応したきめ細かな受け入れ態勢の構築が重要だ」と話した。(秋山紀浩)

紅葉が見ごろを迎え、観光客でにぎわう京都市の天龍寺=11月21日午後(柿平博文撮影)

コロナ教訓、観光業「影響は限定的」

中国政府による日本への渡航自粛の呼びかけは観光事業者が中国人団体客をメインターゲットとする危うさを浮き彫りにした。ただ新型コロナウイルス禍の教訓を経て、近年は海外団体客への過度な依存を改めている事業者も少なくない。

「現時点でキャンセルは発生しているものの、大きな変動はみられず、影響は限定的だ」

国内外で約20の都市型・リゾート型ホテルを運営するベルーナ(埼玉)の担当者はこう話す。

同社は、インバウンドが途絶えたコロナ禍を教訓に、海外ツアー団体客に対する過度な依存を抑制する方向に転換。個人旅行客の宿泊利用の比率を高めてきた。

その結果、今年度上半期のホテル全体の中国人宿泊者の割合は2・4%にとどまる一方、日本人旅行客は62・1%を占めている。担当者は「最近は欧米の個人旅行客が多く、リピーターも増えている。国内需要や(中国以外の)海外旅行客からの宿泊予約は安定的に推移している」と語る。

京都と並ぶ外国人に人気の観光スポットである奈良。近鉄奈良駅近くの商店街で土産物店「絵図屋」を展開する「明新社」(奈良市)の企画営業部、松浦一葉さん(51)は「影響はまったくない。商店街ではむしろ日本人客が増えたように感じる」とした。

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