首相の台湾発言 産経「抑止力を高めた」 軽率で不用意と朝毎東 社説検証

党首討論に臨む高市早苗首相=11月26日、国会内(春名中撮影)

高市早苗首相が中国が武力侵攻する台湾有事を巡り、集団的自衛権の行使ができる「存立危機事態」に該当する可能性があると国会で語った。中国政府は発言の撤回を求めるとともに、経済的威圧を強めている。産経は首相発言について抑止力を高めたと評価し、日本政府に中国の不当な要求に屈しないよう求めた。朝日、毎日、東京などは中国の経済的威圧を問題視しながらも、高市首相を軽率などと批判した。

産経は、首相発言は「中国が軍艦などで台湾を海上封鎖し、これを解こうと来援する米軍への武力行使があった場合」の話であると指摘した。

「まっとうな内容で評価できる。日本の国民に安全保障情勢の厳しさを知らせたり、国家国民を守る日本の抑止力を高めたりする効果があった」とし、同時に「中国が台湾への武力侵攻に踏み切らなければ、日本が存立危機事態を認定して自衛隊が出動することはない」と強調した。

朝日は存立危機事態の認定について「自衛隊が参戦し、日本が戦争当事国になることを意味する。その重みをわきまえたうえで、言葉を選んだようには見えない」「緊張を不用意に高めた」と非難した。

さらに「厳格に解釈すれば、集団的自衛権の行使は厳しく制約されうるが、首相の見解は政府による拡大解釈に道を開くものだ」とも記した。

毎日は「ことの重大さへの自覚を欠いた答弁である」「持論に基づく勇み足であれば、軽率と言うほかない」と批判した。東京も「発言の重大性を理解しているのか。あまりにも軽率で不用意な発言」とした。

読売は「台湾有事が存立危機事態になり得る、という首相の認識は理解できる」とした。その上で「危機に際しての意思決定に関する発言には慎重さが求められよう」と説いた。高市首相が「具体的な事態に言及したのは反省点だ」と釈明したことに対しては、「適切と言える」とした。

日経も「自衛隊最高指揮官としての発言の重みを自覚してほしい」といさめた。

中国は発言撤回を要求しているが、産経は「日本は不当な要求に迎合してはならない。際限なき対中屈従につながるからだ」と主張した。「首相発言を撤回すれば安保関連法を制定した意義は水泡に帰す。日米同盟の空洞化が進み日本の安全保障は保てなくなる」とも説いた。

読売も「首相が答弁を撤回すれば、仮に台湾有事となっても存立危機事態の認定や、集団的自衛権の限定的な行使に踏み切りにくくなる可能性があり、安保関連法を意味のないものにしかねない」と論じた。

これに対し東京は先の党首討論で「台湾有事を巡る国会答弁を撤回せず、対中関係を悪化させた自身の責任についても明確に語らなかった」と批判した。毎日も「答弁そのものは撤回していない」と記した。

日本は今後どうすべきなのか。産経は「抑止力向上に一層努める必要がある」「毅然(きぜん)とした姿勢を貫くのが最善の策」と訴えた。朝日は「中国側の対抗措置によっては、日本経済への打撃も懸念される。収拾に向け、首相自ら動くべきだ」、毎日は「日本は過剰に反応することなく、事態の沈静化に向けて粘り強く中国との対話を続ける必要がある」とした。

中国の薛剣(せつけん)駐大阪総領事はSNSで「勝手に突っ込んできたその汚い首は一瞬の躊躇(ちゅうちょ)もなく斬ってやるしかない」と投稿した。産経は日本駐在の資格はないとして、中国政府に総領事更迭と謝罪を求めた。併せて「そうしないなら日本政府はウィーン条約に則(のっと)り『ペルソナ・ノン・グラータ』(好ましからざる人物)として国外退去処分にすべきだ」と強調した。

朝日は「『国外退去』を求める声もあるが、事態をエスカレートさせるおそれがある。薛氏のような人物を日本に長く駐在させている中国政府の姿勢や判断を問い続けることが賢明だろう」とするにとどめた。毎日は「実行すれば、中国も同様の措置を取り、収拾がつかなくなる恐れもある」と慎重な姿勢を示した。

立憲民主党など一部野党も首相発言を批判してきたが、抑止力を高めた点や台湾情勢の深刻さを理解できないのか。中国は台湾への武力行使を放棄していない。だからこそ中国は首相発言に異様な反発をしているといえる。高市首相は日本と国民を守るため、日米同盟を強化し、抑止力と対処力を一層高めなければならない。(坂井広志)=第1、3水曜掲載

首相の台湾発言をめぐる主な社説

【産経】

・暴言の中国外交官追放を (11月11日付)

・国民守る抑止力を高めた (17日付)

・専制国家の本性を現した (21日付)

・野田氏の安保認識を疑う (27日付)

【朝日】

・歯止め緩める首相答弁 (8日付)

・不毛な対立に区切りを (18日付)

・誠実とは遠い首相答弁 (27日付)

・事態収拾へ動かぬ首相 (29日付)

【毎日】

・答弁の重み自覚すべきだ (11日付)

・緊張回避へ冷静な対応を (18日付)

・事態を悪化させる威圧だ (21日付)

・責任転嫁では解決しない (28日付)

【読売】

・安全保障で政局もてあそぶな (13日付)

・度が過ぎる中国の対日悪宣伝 (20日付)

・世論戦で日本は後れを取るな (29日付)

【日経】

・政争の具にせず国益に資する安保論議を (14日付)

・日中両国は冷静な対話で対立の激化防げ (16日付)

・日米結束で中国の宣伝戦に冷静な対処を (26日付)

【東京】

・存立危機を軽く語るな (11日付)

・対話通じて沈静化図れ (18日付)

・度を越えた中国の主張 (26日付)

・国益損ねた責任免れぬ (27日付)

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