中国発の「ラブブ」、模造品「ラフフ」まで必須アイテムに その理由は?
上海にあるポップマートの旗艦店でラブブを眺める人々=6月13日/Go Nakamura/Reuters
香港/北京(CNN) 中国河北省の小さな町でにぎわいを見せる市場。ここではもう、「ラブブ」はガラスケースに陳列された憧れのコレクターズアイテムではない。サツマイモやキャベツ同然の扱いを受け、まとめて大きなビニール袋に放り込まれたり、車のトランクに積まれて買い手が付くのを待っている状態だ。
これは本物のラブブではない。ラブブと言えば、最近カルト的な人気を博している中国玩具大手ポップマートの人形だが、ここに並んでいるのは「ラフフ」。氾濫(はんらん)する模造品に付けられた冗談交じりの愛称だ。コレクターたちはさらに、「ラゴゴ」「ラババ」「ラププ」といった遊び心あふれる別称まで編み出した。
ポップマートは先月、上半期の業績が5倍近い増益になったと報告した。複数の国から購入を控えるよう注意喚起がなされているものの、ラフフの売り上げも急増しており、ミームや面白動画、「開封の儀」を捉えたビデオブログがあふれかえる。
こうしたラフフの大半は、中国の広東省や河北省にある小規模工場で生産され、国内外で大量に販売されている。
米英の当局は消費者に対し、ラブブの模造品は粗悪な作りだと警告。目や手足など、取り外し可能な小さな部品を含んでおり、幼児に深刻な窒息の危険をもたらしかねないと注意を促した。
中国当局も市場からの模造品の排除に取り組んでおり、年初以降、輸出が予定されていた人形180万体あまりを押収した。
国営メディアの社説を読むと、なぜ中国当局がラフフの急増をこれほど懸念しているのかがうかがえる。
新華社通信の社説はラブブを中国の成功物語として称賛しつつも、「『偽物』や『模倣品』の氾濫」によって国のイノベーション(技術革新)が損なわれていると指摘。「知的財産の厳格な保護なくして、持続可能なイノベーション競争力は生まれない」と説いた。
なぜラフフなのか?
ラフフのことを「これまで見た中で一番かわいくて、一番醜いキャラタクター」と語るのは、米テキサス州のシングルマザー、ダニエル・ホレスさんだ(50)。11歳の娘が最近、地元のフリーマーケットで20ドル(約3000円)で買った耳が光るラフフをプレゼントしてくれたという。
ホレスさん一家はこのラフフを「ゲイリー」と名付け、正式に家族の一員に迎えた。「本当にばかげた話。私は50歳で、おもちゃにかまっている時間なんて人生に残されていないのに」と笑い、「でもこの小さな毛むくじゃらは本当にかわいい。何を思い出すかと言えば、醜い赤ちゃんね!」と語った。
人々がラフフにひかれる理由は単純だ。「ブサカワ」の魅力に加え、歌ったり踊ったりといった本物のラブブにもない一風変わった特徴、そしておそらく何より重要なのは価格だろう。ラフフの値段は通常、本物の1割にとどまる。
「私は偽物のラブブを探すのが好き。本物にはできない歌やダンスをやってくれるから」とホレスさんは語る。
中国福建省出身のパティシエ、マオマオさん(29)にとって、ラブブの価値の由来はブランドの誇大宣伝に過ぎない。高額を払うのは、苦労して得た金を資本主義のドブに捨てるようなものだという。
「ラブブの価格高騰にはもう耐えられない。もとの値段は99元(約2000円)だった。誇大宣伝の代物になんで何百元も余計に払わなければならないの?」「単なる人形なのに」とマオマオさんは語る。
ポップマートの中国公式サイトでは、ラブブのぬいぐるみペンダントの入ったブラインドボックス(中身の見えない箱)が99元、通常のぬいぐるみが499元前後で販売されており、人気の高い人形はさらに高額になる。いずれも「在庫切れ」と表示されている。
中古市場は気の遠くなるような値段だ。もともと99元だった隠れエディションのぬいぐるみペンダントは、中国のバイヤー向けプラットフォーム「得物」では1400元に。新シリーズも当初は199元だったのが、2000元を超える値段で転売された。
米国では平均小売価格が中国の約2倍に上り、中古版ラブブの堅調な市場を支える要因になっている。
「フェイスブックのマーケットプレイスに行き、誰かのつてを頼らないと買えない。これでは、実態はラブブを買う機会にお金を払っているようなもの」とテキサス州のホレスさんは話す。「大きめのボックスを購入して開封し、1体ずつ60ドルで売る人もいる」
SNSユーザーの多くがセレブをまねてエルメスのバッグ「バーキン」からラブブをぶら下げ、地位や流行への敏感さを誇示する理由はホレスさんも理解している。ただ、ホレスさんにとってラフフとは、ラブブの原点回帰、おもちゃへの回帰に他ならない。
「あんなバーキンとラブブを組み合わせる流行には乗りたくない。私が乗りたいのは、ラフフとウォルマート版バーキンの流行」(ホレスさん)
もうかる商売
広東省東莞の玩具メーカーはCNNの取材に、7月のピーク需要時には偽のラブブのおもちゃ15万~16万体を販売し、最大200万元の利益を得たと語った。
工場の営業マネジャーは「必死に頑張ってもラブブを入手できないファンが多かった」と振り返る。「彼らがラフフに流れた理由はそこにある」
営業マネジャーによると、工場で作られたラブブの模造品は中国全土、さらには欧州や東南アジアに出荷されているが、大半は米国向けだ。米国だけでこの工場からの輸出の4割超を占めるという。