地球の生命誕生に新説、水滴の微小な電気が化学反応を引き起こした可能性

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 約40億年前、地球は生命のない荒々しい世界だった。そこでは波が砕け、川が流れ、滝が轟きながら、大気に水しぶきを巻き上げていた

 この地球上の生命が誕生するきっかけになったのは、水しぶき(水滴)の中で発声した小さな電気の火花かもしれない。

 アメリカのスタンフォード大学の化学者、リチャード・ゼア教授らの研究によると、こうした水滴同士が微小な電気を帯び、わずかな放電「マイクロ雷(微小雷)」を発生させることで、生命の基礎となる分子が生み出された可能性があるという。

 この研究は、1952年の海への落雷による化学反応が有機物を作り出したというユーリー・ミラー仮説の進化版ともいえる成果だ。果たして、水の飛沫が生命の誕生に関わっていたのだろうか?

地球の生命は一体どのようにして誕生したのだろうか?

 私たち生物を構成しているタンパク質・酵素・核酸・クロロフィルといった化合物は、炭素・窒素結合を特徴とする有機物によって作られている。

 だが地球が形成されて数十億年の間、化学物質は豊富にあったとしても、肝心の有機物はほとんどなかったと考えられている。

 ならば、そうした有機物はどこからもたらされたのか?一説によれば、地球ではなく、宇宙から飛来したというが….

 これに関して、「ミラー・ユーリー仮説」という興味深い説がある。

 1953年、当時大学院生だった化学者スタンリー・ミラーとその師ハロルド・ユーリーは、太古の地球の海と大気を模したフラスコの中に電気を放ってみた。すると、そこに有機物であるアミノ酸ができたのである。

 この実験結果から、ミラーとユーリーは、生命誕生のきっかけになったのは、海に雷が落ちたことではないかとの仮説を提唱した。

 これが本当に正しいのかどうか、今の時点で確かなことはわからない。

 1つの反論として、そもそも自然環境では落雷の頻度が低く、しかも海が広大すぎるというものがある。

 そのせいで雷が分散されてしまい、有機物を生成する仕組みとしてはあまり現実的ではないだろうというのだ。

 だがもしかしたら、雷はそれほど派手なものである必要はないのかもしれない。

 肉眼ではほとんど見えないような極小の放電でも事足りるのだとすれば、雷の頻度や海の広さの問題は解消されることになる。

 それがスタンフォード大学のリチャード・ゼア氏らが今回主張していることだ。

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 ゼア氏らがまず調べたのは、水飛沫の細かい水滴が帯びる電荷だ。

 その結果、大きな水滴は正の電荷を帯びるのに対して、小さな水滴は負の電荷を帯びる傾向にあることがわかった。しかも、そうした反対の電荷を持つ水滴が互いに近づくと、それらの間で放電が起きる。

 この放電は、雲の中で雷が生じるプロセスによく似ているため、研究チームは「マイクロ雷(微小雷)」と呼んでいる。

 その雷は肉眼ではほとんど見えないような微かな光だ。それでも十分なエネルギーがある。

 その後の実験では、このマイクロ雷を散らす飛沫を、太古の地球の大気を模した気体(窒素・メタン・二酸化炭素・アンモニアなど)に吹きかけてみた。

 すると驚くべきことに、シアン化水素・アミノ酸(グリシン)・ウラシルといった有機物が作られたのである。

 このことから研究チームは、地球の生命誕生のきっかけは、轟音を鳴り響かせる雷ではなく、もっと小さな水飛沫の中に散った小さな雷だったとの仮説を唱えている。

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 ゼア氏は、「水滴が岩場にぶつかるなど、初期の地球にはいたるところで水飛沫が生じていました。それらが繰り返されるうちに、この化学反応が引き起こされたかもしれません」と、ニュースリリースで語る。

 私たちは水飛沫などほとんど気にしないかもしれない。だが「微小な水滴に砕けると、水は非常に反応性が高くります」とゼア氏は話す。

 もしかしたら、そこには生命を誕生させようなパワーすら秘められているのかもしれない。

 この研究は『Science Advances』(2025年3月14日付)に掲載された。

References: ‘Microlightning’ in water droplets may have sparked life on Earth | Stanford Report

本記事は、海外の記事を参考にし、日本の読者向けに独自の考察を加えて再構成しています。

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