「1日1万歩」神話、そろそろ手放してもいいかもしれません。脳が喜ぶのは実はもっと手前でした
長年、「1日1万歩」が健康のための目安として語られてきました。ですが、認知症に関する新しい研究によると、脳への恩恵はその手前、もっと少ない歩数から始まっているようです。
7万5,000人以上の成人を対象にした研究が、査読付き学術誌『JAMA Neurology』に掲載されています。それによれば、歩くことと認知症リスクの関係において、恩恵が現れ始めるのは、あの馴染み深い「1万歩」という目標よりもかなり手前だったとのことです。
「最大の誤解は、認知症リスクを意味のあるレベルまで下げるには、高いフィットネスレベルや激しい運動が必要だという考え方だと思います」
この2022年の研究の著者の一人で、マドリードのウニベルシダー・エウロペアでシニア研究者を務めるボルハ・デル・ポソ・クルーズ博士は、Inc.の取材にそう語っています。
「私たちの研究では、ほとんどの人ができる『歩くこと』が、認知症の発症リスクの低下と強く結びついていることがわかりました。そしておそらく一番重要なのは、その恩恵が従来言われてきた1万歩よりもずっと手前から始まっていたという点です」
同氏によると、1日およそ3,800歩で、認知症リスクがおよそ25%低下することと関連していたそうです。そして、認知機能への恩恵が最大になるのは、およそ9,800歩あたりだったといいます。
ペースも関係していました。「どれだけ歩くかだけでなく、どれだけ目的を持って歩くかも、脳の健康にとって重要かもしれません」と同氏は付け加えています。
別の研究者は、さらに低いラインを示しています。ブリティッシュ・コロンビア大学で健康な加齢研究のティア1カナダ・リサーチ・チェアを務める教授、テレサ・リュー=アンブローズ博士(PhD, PT)は、Inc.の取材に対し、1日7,000歩が認知症リスクの38%低下と関連していると語りました。「多くの成人にとって、これはだいたい60分のウォーキングに相当します。あるいは、毎食後に20分ずつ歩く、という形でも構いません」
なぜ「強度」より「継続」が効いてくるのか
「『使わなければ失う』ということなんです」とリュー=アンブローズ博士。
「強度と継続、どちらが大事かと言えば、エビデンスが示しているのは継続、つまり時間をかけて定期的に身体活動を続けることのほうが重要だということです。何もしないよりは、何かをするほうがいい」
同氏によれば、障害になっているのは2つの誤解だといいます。ひとつは、脳を守るには何か極端なことをしなければならないという思い込み。もうひとつは、認知機能の低下は避けられないものだという思い込みです。
「定期的な身体活動を含む生活習慣が、加齢に伴う脳の健康を支えうるという、かなり強力なエビデンスが今では揃っています。課題は、そのエビデンスを人々の日々の習慣にどう落とし込んでもらうか、という点です」
と同氏はいいます。
歩くことが「脳に」していること
ハーバード大学医学大学院で神経学の教授を務め、マスジェネラル・ブリガムのマッキャンス脳健康センターのディレクターでもあるルドルフ・タンジ博士は、運動は「脳の健康、特にアルツハイマー病のリスクを相殺するという点で、非常に大きな役割を果たしている」と語っています。
同氏の研究では、マウスにおいて、運動が海馬——アルツハイマー病に対して最も脆弱な、記憶を司る領域——での新しい神経細胞の生成を促すことが示されています。また、身体を動かすことは、症状が現れる何十年も前から蓄積し始める有害なタンパク質、ベータアミロイドの分解も引き起こすといいます。
「これを実現する良い方法のひとつが、安静時心拍数が50%上がるくらいの運動を、1日20〜30分行うことです」と同氏は話しています。
仕事の1日が、脳にとって一番の敵かもしれない
南カリフォルニア大学のデイヴィッド・ライクレン博士は、最大の脅威は「仕事の1日そのもの」だと語っています。
「私たちは、1日を通して小刻みに体を動かす時間を、長時間座り続ける時間に置き換えてしまいました。目指したいのは、座ること自体をなくすことではなく、何時間もじっと動かないままの状態を避けることです」
電話中に立つ、歩きながらのミーティング、短い休憩中の軽い運動——同氏によれば、こうした工夫のほうが、座りっぱなしの1日を1回の運動でまとめて相殺しようとするより、長続きしやすいといいます。
エビデンスの強さで言えば、ウォーキングがもっとも裏付けの厚い選択肢ではあるものの、それだけで完結させるのではなく、ほかの健康的な習慣と組み合わせてこそ、効果を発揮するとのことです。
▼歩くってすごいんだ!
Originally published by Inc. [原文]
Copyright © 2026 Mansueto Ventures LLC.