アングル:グローバル企業、トランプ関税の痛み分散 各国で値上げも

 5月20日、ドイツのサンダルメーカーのビルケンシュトックやデンマークの宝飾品企業パンドラなど、一般消費者を相手に世界で事業を展開する企業は、トランプ米大統領の関税引き上げに伴うコスト上昇を分散させるため各国で値上げを検討している。写真はビルケンシュトックの紙袋を手にした人。ベルリンで4月撮影(2025年 ロイター/Lisi Niesner)

[ロンドン/フランクフルト 20日 ロイター] - ドイツのサンダルメーカーのビルケンシュトック(BIRK.N), opens new tabやデンマークの宝飾品企業パンドラ(PNDORA.CO), opens new tabなど、一般消費者を相手に世界で事業を展開する企業は、トランプ米大統領の関税引き上げに伴うコスト上昇を分散させるため各国で値上げを検討している。米国だけで大幅に値上げすれば、米国での売り上げが打撃を受ける可能性があるからだ。

消費者物価がようやく安定し始めた欧州連合(EU)や英国のような市場でもインフレをあおる可能性があるため、中央銀行は警戒を強めている。

ビルケンシュトックの最高財務責任者(CFO)は先週、世界全体で「1桁台前半」の値上げをすれば米国の関税引き上げの影響を相殺できるとの見方を示した。

パンドラのアレクサンダー・ラシク最高経営責任者(CEO)は世界的に値上げを実施するか、同社にとって最大市場の米国でより大きく値上げするかを協議していると明らかにした。

ドイツ西部ボンにあるコンサルティング会社サイモン・クチャーのパートナー、マーカス・ゴラー氏は「企業は関税の配分を真剣に考えている」とした上で、「米国外のメーカーは、米国市場での製品価格をそれほど上げられないため米国で少し値上げし、欧州や他の市場でも少し値上げしようと言うかもしれない」と指摘した。

トランプ氏は全ての輸入品に一律10%の基本関税を課した上で、貿易相手国に応じた「相互関税」も適用すると脅している。

米小売大手のウォルマート(WMT.N), opens new tabが関税強化のために値上げを余儀なくされると説明すると、トランプ氏はソーシャルメディア(SNS)に「(ウォルマートは)関税を食べろ(吸収しろ)」と投稿した。

企業が米国以外の市場で値上げを発表することは、トランプ氏から同じような反発を受けることを避けるための方法かもしれない。

米シカゴ大学経営大学院のジャンピエール・デュベ教授(マーケティング論)は「米国に入ってくる製品が関税の対象になるのであれば、米国内で値上げをしなければならないのは算数で明らかだ」としつつ、「しかし米国の関税のためだけに値上げをしたとホワイトハウスから非難されることを避けたいので、どこの国でも値上げしていることを証明できれば(中略)一種の盾になる」と言及した。

米ミシガン州立大のジェイソン・ミラー教授(供給網運営論)は、小売企業は消費者があまり価格を気にしない商品や特定の市場で値上げし、価格に敏感な商品や国では値上げを抑えることができると指摘。「米国だけで展開する企業は価格を12%引き上げなければならないかもしれない。しかし、グローバル企業であれば他の市場での価格設定で勝負できるため、8%の値上げで済む」と解説した。

英イングランド銀行(中央銀行)のベイリー総裁は今月、「グローバル企業が(関税率の)違いを区別せず、世界中に通用する価格ソリューションを適用する」ことの問題を指摘して「私たちはそれを注意深く見守る必要があると思う」と述べた。

<インフレの不確実性>

ユーロ圏のインフレ率は、欧州中央銀行(ECB)目標の2%にようやく近づいてきた。ECBが3月下旬に実施した欧州企業に対する調査によると、小売部門の物価上昇率は低水準に抑えられた。しかし、それはトランプ氏が4月2日に「相互関税」を発表し、中国からの輸入品の関税を145%に引き上げる前のことだ。

米国の対中関税は先週、30%へ引き下げられたため、欧州の企業の一部は以前より安く商品を調達できるようになった。

欧州17カ国で衣料品を販売するタッコファッションのマルティーノ・ペッシーナCEOによると、米国の小売企業が中国のメーカーからの注文をキャンセルしたため、中国のメーカーはより安い価格を提示して輸送コストも下がったと説明する。その上で「私たちには分からないのは、米国でインフレが起こるかどうかと、そのインフレが欧州に波及するかどうかだ」と話す。

一部の大手企業は、米国外での値上げを否定している。ドイツのアディダス(ADSGn.DE), opens new tabのビョルン・ガルデンCEOは4月下旬の決算発表後、投資家に対して「米国の関税のために米国外で値上げする理由はない」とし、「関税に関する議論は米国内だけのものだ」と語った。

しかしECBのシュナーベル理事は今月の講演で、米国の関税が今後インフレをもたらすかもしれないとして「投入コストへの打撃を補うため、企業は関税の影響を直接受けない商品の価格も引き上げる傾向がある」と言及した。

米ユタ大のハル・シンガー教授(経済学)は「企業の顧客にとって製品の総コストのうち関税が適用されるのはどの部分なのか、あるいは適用される関税率さえも知ることは非常に困難だ。このような情報の非対称性は、新型コロナウイルス禍の期間と同じように悪用されやすい環境を生む」との見解を示した。

米国の消費者の1年先の期待インフレ率は4月に6.7%と、1981年以来の高水準に跳ね上がった。ユーロ圏でも、消費者の期待インフレ率が上昇している。

ミシガン州立大のミラー教授は「消費者がインフレを見込んでいるのならば、企業にさらに少しの値上げ余地を与えることになる」と説明した。

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London-based reporter covering the European retail sector through a global lens. Focusing on companies including Adidas, H&M, Ikea, and Inditex and analysing corporate strategy, consumer trends, and regulatory changes, Helen also covers major supermarket groups like Ahold Delhaize, Carrefour, and Casino. She has a special interest in sustainability and how investors push for change in companies. Previously based in Johannesburg where she covered the mining industry.

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