「一橋より早稲田、九大より上智」独自データが映す大学受験最新動向 “三極化”の時代を生き抜く大学はどこか
0
-
保存
少子化に加え、学生の「志向」の変化も相まって、大学受験業界には“静かなる地殻変動”が起きている。「一橋より早稲田」「九大、北大より上智」という選択肢はあながち珍しいものではなくなってきているのだという。そんな知られざる実情を映し出すデータをもとに、淘汰・再編の進む大学業界の今後を占う。
「以前は考えられなかったような変化が起きています」
受験情報誌「ルートマップマガジン」編集長で、追手門学院大学客員教授の西田浩史氏が指さしたのは、意外な数字だった。
同誌は全国300を超える学習塾の進路指導担当者を対象に、「両方の大学に合格したらどちらへの進学を促すか」の聞き取り調査を行っている。実際に生徒がどちらに進学しているかという実態も踏まえた回答を得ることで、両校の人気のトレンドが把握できる独自指標となっている。
この「W(ダブル)合格データ」によると、北海道大学と上智大学の両校に合格した受験生のうち、上智を選んだ割合は、2020年度入試では文系・理系ともに0%。それが、2026年度では文系5%、理系9%と上昇したのだ。九州大学と上智を比べても、上智を選んだ割合は文系で0%から5%へ、理系で0%から8%まで上昇している。
旧帝大よりも上智を選ぶ学生が、目に見えて増加しているのだ。
同じ東京都内同士の大学でも、同様の現象が生じている。文系国立大学の雄・一橋大学と早稲田大学を比較して、「あえて早稲田を選ぶ」という選択は、これまでであればなかなか考えづらいことだった。しかし一橋の経済学部と早稲田の政治経済学部を比較して、2018年度では100対0で一橋が選択されていたところ、ここ数年で早稲田が少しずつ追い上げを見せ、2026年度では10%が早稲田を選ぶようになっているというのだ。西田氏は言う。
「塾の進路指導担当者に行っている調査ではありますが、現実をリアルに反映したデータになっています。ですから実際に『一橋を蹴って早稲田』という学生がじわじわ出てきているようで、私自身も驚いているところです」
北大・九大より上智、一橋より早稲田――。この、静かながらも確実に起きている「私立志向」の変化の背景には、何があるのだろうか。
まず、前提として押さえておきたいのが、難関国立大を目指す受験生の併願先の変化だ。
独自の3科目試験のみで合否が決まる方式が基本だった早稲田は、2021年度入試より、政治経済学部で共通テストの受験も必須化し、その中で数学Ⅰ・Aを指定科目とした。同様の共通テスト併用型はその後、他学部にも広がっている。
元駿台予備学校進学情報事業部長で教育ジャーナリストの石原賢一氏は、そのねらいを次のように解説する。
「早稲田にとっては、私立文系・私立理系のトップ層だけでは、受験者数の伸びしろはもはやないわけです。それなら東大や一橋に届かなかった子の受け皿となるように制度設計し直したほうがいい。それは地方の旧帝大クラスを受ける子にとっても、併願先としての魅力が増すことになります」
もう一方の私学の雄・慶應義塾大学では、以前から文系入試でもその傾向がみられた。経済学部や商学部のA方式で数学を必須としてきたのがその象徴だ。代々木ゼミナール教育情報センターで教育情報室長を務める木戸葵氏は、
「ここ2年ほど、慶應は商学部、あるいは起業支援などに定評のある総合政策学部が志願者数を伸ばしてきています。特に商学部は、国立大学志望者の併願先として機能していますが、それは数学が課されている要因が大きいでしょう」
と話す。
従来の慶應の一部学部に加え、早稲田の入試改革によって、“国立勢”にとって早慶が併願しやすい対象となってきているのだ。
しかし、難関国立大志望者にとっても早慶のハードルそのものが決して低くはない上、早稲田の入試改革が奏功するなどして、合格の難易度はさらに上昇傾向にある。
そこで、次の併願先としてクローズアップされたのが上智大学というわけだ。先の石原氏によれば、
「旧帝大が第一志望の受験生でも、よほど学力に余裕がある子でないと早慶とのダブル合格は難しくなってきました。その点、上智は早慶に匹敵するブランド力がありながらも難易度は比較的抑えめで、併願しやすい。『早慶上理』という呼び名が出てきているように、東京理科大学にも同様の傾向がみられます」
難関国立志望者のリアルな併願先として、上智や東京理科大の人気が静かに高まっているというのだ。
「都心志向」と「安全志向」
受験生の大学選びの基準も、この数年で変化がみられる。
同じく「ルートマップマガジン」が今年、全国127塾の進路指導担当者を対象に行った「受験生が受験校決定の際に重視している要素」のアンケート調査によれば、1位は「立地の利便性」、2位は「偏差値・入試難度」、以下「知名度・ブランド」「学部学科の内容」「国際性・留学制度」と続く。
-
堀尾大悟
ライター。慶應義塾大学卒。埼玉県庁、民間企業を経て2020年より会社員兼業ライターとして活動を開始し、2023年に独立。「東洋経済オンライン」「プレジデント」「Innovation Review」「デイリー新潮」などビジネスメディアを中心に執筆。ブックライターとしてもこれまで30冊以上の書籍を担当している。
この筆者の記事
-
保存