広島県のカキ大量死 鈴木農相が東広島の生産現場を視察 財政支援の検討急ぐ考え示す
広島県内で養殖カキが大量に死んでいる問題で、鈴木憲和農相は19日、東広島市安芸津町の水産会社を視察した。生産者や関係自治体の首長たちと意見交換し、国の現行制度下でできる生産者への財政支援策の検討を急ぐ考えを示した。※記事の後半に農相への一問一答と、広島県知事や漁協関係者、東広島市長の発言要旨があります。
鈴木農相は水産会社で被害状況の説明を受けながら、水揚げされたばかりの死んだカキの殻を確認した。地元漁協の役員や湯崎英彦知事、呉市の新原芳明市長、東広島市の高垣広徳市長たちと意見を交わした。
県と2市は生産者への財政支援などを国に求める要望書を提出した。県水産振興議員連盟は、来年度以降の生産に必要な種苗確保に向けた支援拡充などを求めた。
会合後、鈴木農相は「現状制度で何ができるか、できる限り早くしっかりと示したい」と強調。広域での原因調査や温暖化を踏まえた新たな生産技術の開発を進めていく考えも示した。
早田原漁協(同町)の森尾龍也組合長は「想像をはるかに超える被害と認識してもらった。無償融資を超える財政支援と、安心して生産するための原因究明をお願いしたい」と話した。(教蓮孝匡、長野葵)
【一問一答】農相と記者団のやり取り
広島県内で養殖カキが大量に死んでいる問題で、被害が出ている東広島市安芸津町を19日に視察した鈴木憲和農相は、記者団の質問に答えた。やりとりの要旨は次の通り。(教蓮孝匡)
―どのような支援を検討しますか。
これから水揚げが始まる地域もあるので、まずは全体の状況を把握することが先決だ。ただ、生産者は大変な不安、不透明感の中にいる。資材費の支払いも迫る。さまざまなセーフティーネット資金など今ある制度で何がどこまでできるか、整理する。
―気候変動などグローバルな要因も考えられます。どう究明していきますか。
高温に強いとされる種苗も今回、死んだ割合が通常とあまり変わらないと聞いた。国の研究部門もしっかり現場に入り原因を調査する。
瀬戸内海だけでなく、どの海域も海洋環境の変化に対し、漁業者がさまざまな対応を迫られている。われわれももっと新しい技術、栽培方法の開発に力を割き、生産者が「こうした対応をすれば経営が安定する」と希望が見える提案をしたい。
―消費者への影響も出てきます。
生産現場だけの話ではなく、加工や観光などカキのサプライチェーン全体に関わる課題との意識を持って対応する。消費者にはまず、生産現場の大変な状況を理解してもらえたらありがたい。
関係者の発言要旨
広島県の湯崎英彦知事
広島県内で養殖カキが大量に死んでいる問題で、湯崎英彦知事は19日に東広島市安芸津町を視察した鈴木憲和農相との意見交換後、記者団の質問に答えた。湯崎知事の発言の要旨は次の通り。
生産者は11、12月にいろいろな支払いもやってくる。早急な経営支援対策が必要。本日、国に非常に早く動いてもらえたのは大変ありがたい。われわれも12月の県補正予算案に向けて準備をしているが、そもそも「それで間に合うのか」ということも含め、もう一回よくレビューする必要がある。
(夏でも身が痩せないとされる)三倍体が多く死んでいる深刻な状況。まさに災害級だ。一つの産地がまるごとなくなってしまうぐらいのこと。それを農相には認識してもらえたと思う。特別な対応を考えてもらえると期待している。
「広島といえばカキ」「カキといえば広島」というブランドをいかに守っていくか。みんなで力を尽くしていく必要がある。ただ、一番怖いのは「もうそういう状況だからカキは食べない」などとなること。この風評的な部分も対応していかないといけない。
漁業関係者
広島県内で養殖カキが大量に死んでいる問題で、東広島市と呉市の漁協の組合長たちは19日、東広島市安芸津町を視察した鈴木憲和農相との意見交換後、記者団の質問に答えた。組合長たちの発言の要旨は次の通り。
◇早田原漁協(東広島市)の森尾龍也組合長
過去にも例がないほどの死滅状態。生産者の金銭的不安が大きいことを伝え、国・県・市が連携して無償融資を超えた支援をもらえるよう要望した。
地球温暖化の影響による高水温を踏まえ、高水温に強い品種として三倍体の養殖を始める生産者が増えている。今回、三倍体も普通のマガキも区別がつかないぐらいの被害が出ている。これまで「強い」と認識していただけにショックが大きい。三倍体の種苗は人工的につくるので仕入れ金額も大きい。その費用が実にならないのは痛い。
三倍体とは違う高水温、高塩分に強い種苗生産ができれば、それに移行できるのだが。
◇安芸津漁協(東広島市)の古川正則組合長
売り上げがない状態だから運転資金が回らない。来年1月や2月の支援じゃなくて今。今日、明日を乗り切っていくことを助けてほしいと農相に伝えた。「全力で頑張りたい」との答えがあった。
◇音戸漁協(呉市)の中島逸郎組合長
個人の経営努力だけではなんともしがたい今回の災害。国県市町などの財政支援はもちろん、品種改良を含めた技術支援、経営スタイルの変化なども含めた支援を継続的にしてほしい。
◇安浦漁協(呉市)の山根周志組合長
9割以上の割合での大量死が見受けられる。廃業の危機まで迫ってきている。今後の対策を国や県、市と一緒に考えて行ければと思っている。私たちも今後、環境問題などにも取り組んでいかなければならないと思う。
東広島市の高垣広徳市長
広島県内で養殖カキが大量に死んでいる問題で、東広島市の高垣広徳市長は19日に同市安芸津町を視察した鈴木憲和農相との意見交換後、記者団の質問に答えた。高垣市長の発言の要旨は次の通り。
速やかな現地視察は大変感謝している。温暖化でカキの生育環境が変わる中、60年間養殖に携わる地元生産者も「初めて経験する」と言うほど、今回は災害級のダメージであると農相に伝えた。海域環境については「全国的な問題」との認識で「政府を挙げてしっかりとやらなければならない」との回答をもらった。
市の独自支援については、通常は融資制度で経営支援をしていくところ。だが、一歩突っ込んだ形のものを今後検討していく必要がある。これから今年最後の市議会が始まる。国の補正予算の動向を踏まえながら、できるだけ早く事業者にある程度安心してもらえる支援策をわれわれも提案していく必要がある。