わずか38日の間に中国とロシアに2つの橋が開通、金正恩が手にした「軍拡の大動脈」 習近平もプーチンも北朝鮮を切り捨てられない、元陸将が読み解く金正恩の「中ロ二枚戦略」(1/3)

中国と北朝鮮を結ぶ新鴨緑江大橋が開通した(10月15日、写真:ロイター/アフロ)

 2026年10月15日、中国と北朝鮮を隔てる鴨緑江で、完成から12年間使われていなかった橋が、ようやく開通した。

 中国遼寧省の丹東と北朝鮮の新義州を結ぶ新鴨緑江大橋である。全長約3キロ、4車線の道路橋で、2014年に完成していた。しかし、北朝鮮側の接続道路や税関施設の整備が進まず、長年にわたって供用が見送られていた。

 10月15日、両国の国旗を掲げたトラックが橋を渡り、ようやく本格的な利用が始まった。

 ロイター通信によれば、開通式では中国の李強首相と北朝鮮の朴泰成首相が映像を通じて演説し、両国の経済・貿易協力の拡大を歓迎した。

 そして開通からわずか9日後、この橋を北朝鮮の最高指導者自身が渡った。

 10月24日、金正恩総書記が新鴨緑江大橋を通って中国遼寧省の丹東を訪問したのである。金正恩氏の訪中は、2025年9月に北京で開かれた軍事パレードに出席して以来、約1年ぶりだった。

 ロイター通信の10月24日付報道によれば、金正恩氏は中国共産党序列4位の王滬寧・全国政治協商会議主席と会談し、朝鮮戦争で北朝鮮を支援した中国軍の記念館を訪れた。さらに丹東市内の自動車工場も視察した。

 今回、習近平国家主席との会談はなかったが、王滬寧氏は習氏のあいさつを伝え、新しい橋を活用して人的交流や経済・貿易協力を拡大する中国側の意向を示した。

 ロイター通信が伝えた朝鮮中央通信の報道によれば、金正恩氏は帰国の際、新しい橋の中央付近で、この橋が両国を結び、両国民の心を固く結びつける歴史的使命を果たすことへの期待を表明した。

 この訪問は、単なる交通施設の視察ではないだろう。ロシアとの軍事協力を深めている金正恩氏が、新たな物流の動脈となる橋を自ら渡り、中国との歴史的な友好関係と経済協力の重要性を示したのである。

 開通からわずか9日で最高指導者が自ら利用したという事実は、この橋が北朝鮮にとって持つ政治的・経済的な意味を象徴している。

 実は、そのわずか38日前の9月7日にも、北朝鮮にとって重要な橋が開通していた。

 ロシアとの国境を流れる豆満江に架けられた、両国間で初めての本格的な道路橋である。

 この橋は、1946年に金日成を爆弾から守ったとされる旧ソ連軍将校、ヤコフ・ノビチェンコにちなんで命名された。

 長さは約1キロ、2車線。ロシア側の国境施設は、1日最大300台の車両を処理できる設計となっている。

 ロイター通信の9月7日付報道によれば、ロシアのミシュスチン首相と北朝鮮の朴泰成首相が開通式に映像で参加した。

 これまで露朝間の陸上輸送は鉄道が中心だったが、新橋によって道路輸送という新たな選択肢が加わった。

 中国との橋は12年間眠っていたものが動き始め、ロシアとの橋は新たに建設された。

 わずか38日間で、北朝鮮は二つの大国につながる物流ルートを拡充したことになる。

 この二つの橋を、単なる経済協力の象徴として見てよいのだろうか。

 私が注目するのは、金正恩総書記がロシアとの軍事協力を強化しながら、中国との経済関係も拡大させようとしている点である。

 金正恩氏は、中国とロシア双方との関係を生かし、双方から利益を引き出せる立場を強めているのではないか。

 そして、この二つの橋は、北朝鮮の経済を支えるだけでなく、軍事力を一段と強化するための物流基盤になる可能性がある。

9月7日には、北朝鮮とロシアを結ぶ初の自動車橋であるヤコフ・ノビチェンコ橋が開通した(写真:ZUMA Press/アフロ)

すでに回復していた中朝貿易、9月は約3億ドルに

 まず、北朝鮮の貿易がどのように変化しているのか、数字で確認しておきたい。

 中国税関総署の統計によれば、2025年の中朝貿易総額は約27億3500万ドルとなり、前年比約25%増加した。

 新型コロナウイルス禍で大きく縮小した中朝間の貿易は、すでに回復へ向かっていたのである。

 2026年に入っても、その流れは続いている。

 1月から8月までの中朝貿易総額は約19億7400万ドルに達した。9月には単月で約2億9900万ドルとなり、8月の約2億3800万ドルから約26%増加した。

 北朝鮮専門メディア「NKニュース」によれば、9月の貿易額は2026年に入って2番目に高い水準だった。

 1~9月の累計は約22億7000万ドルとなる。

 ただし、この数字には注意が必要だ。

 9月までの貿易増加は、新鴨緑江大橋が開通する前に起きたものである。したがって、新橋の効果によって貿易が増加したと説明することはできない。

 むしろ、すでに中朝貿易が回復しつつあるところに、輸送能力を拡大する新しい橋が加わったと見るべきだろう。

 従来の中朝友誼橋は1937年に着工し、1943年に開通したもので、鉄道と道路が併設されている。道路部分は狭く、大型車両の往来にも制約があった。

 新鴨緑江大橋が本格的に利用されれば、貨物輸送の効率は改善する可能性がある。

 食料、日用品、工業用資材、建設機械などの輸送が容易になれば、北朝鮮の工業生産やインフラ整備を支える効果が期待できる。

 しかし、北朝鮮の貿易を考える際には、もう一つの問題がある。

 ロシアとの取引の実態が、通常の貿易統計だけでは十分に把握できないことだ。

 2023年以降、北朝鮮はロシアに大量の弾薬などを供給し、ロシア側からは石油製品や軍事面での支援を受けていると報告されている。

 これらの取引の相当部分は、一般的な商業貿易とは異なる性格を持つ。

 したがって、中国との公式貿易額が圧倒的に大きいからといって、ロシアとの関係が北朝鮮経済や軍事力に与える影響を小さく見ることはできない。

 中国が北朝鮮の日常的な経済活動を支え、ロシアが軍事協力を通じて別の利益を提供する。

 金正恩氏は、この二つの関係を同時に利用できる立場にある。

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